短篇集

□ただいま、いただきます
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深夜。

薄暗くなった屯所の中でただひとつだけ明かりのついた座敷で、大柄の男たちがこぞって少女をあやしていた。


「桜子ちゃん、ゲームあるよ

俺の部屋行こう」

「あ、あれだろ〜お前がもってんのは戦闘モンだろ?

今時はオトゲーだよね〜桜子ちゃん?」

「………」


精一杯の猫撫で声でなんとか自室まで誘導を試みるも、少女は依然として桜色の頬を膨らませているだけだ。

正しくは自室の「布団」に誘ってるのだが、これは別に淫猥な意味ではない。


「じゃー桜子ちゃん、今日だけ特別にお菓子食べていいから、食べたら寝よっか」

「ジュースも飲んでいいぞ、歯磨きするなら」

「いやっ」


ぷいと可愛らしくそっぽを向いてしまった桜子に顔を見合わせる隊士たち。

そう、彼らは「寝かせ」たいのだ。

というのも沖田たちが捕り物に出かける際、彼女溺愛のドS隊長に釘を打たれたからである。


『いいかてめーら、俺がいない間桜子の世話キッチリやれ。

ちゃんと3食やって、おやつは好きなモン食わせてやれ。

あと歯磨き忘れさせんな。

それから夜は遅くとも10時には布団な。

もし俺が帰ってきたとき夜更かしなんざしてたらどうなるかわかってんだろーな……』


((聞かなくてもわかるわこのサディスティック上司が!))

そんなこんなで、今にも泣きそうな隊士たちなのであった。

そんな彼らを見てため息をつく山崎は頭をかかえた近藤に言った。


「局長〜、アレ絶対寝ませんって。沖田隊長以外の言うことなんざ聞く訳ないでしょ」

「そうは言っても俺たちの命が懸かってるからなァ」


視線の先には隊士たちに囲まれ沖田から貰った人形を抱きしめる桜子。

既に目は半開きなのだが、眉をひそめて睡魔と戦っていた。

夜は長い。

少女一人の為に斬り合い時以上の人員を割く真選組なのであった。


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