Blue rose

□ご主人様と、天使
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「こんな指輪なんかっ
キライ!!」


先ほどまでの和気あいあいとしていた雰囲気とは打って変わって、エリザベスのちょっとした悪戯から事態は大きく発展し、この重苦しい雰囲気を作ってしまった。

エリザベスはシエルの大切な指輪を奪い取り、それを床に打ちつけ壊してしまった。

そんな様子をハイトと、セバスチャンはただ冷やかな無表情で見つめていた。

少なくとも人間ではないハイトは物へ執着する人間の心理や心情が読みとれず、シエルがどうしてそこまで怒っているのかはわからないが、それほど大切なものなんだろうと、そう思った。

あの壊れた指輪をどうにかしてあげたい。


シエルがエリザベスに手を挙げた瞬間、ハイトの体が出る前に、セバスチャンがシエルを止めていた。


『(あぁ、私が止めて差し上げたかったのに、セバスチャンはいつもそうやって坊ちゃんを守るんですね。私ももっと坊ちゃんの為ににお仕えしたいのに。)』


天使である自分よりももっと有能な悪魔に嫉妬して彼らの会話を見続けていた。いまはきっと坊ちゃんの為にしてあげられることはなく、セバスチャンの隣りで、ダンスの為の演奏をするくらいだった。


せめて、あの指を探しだせれば。
小さな2人の為だけのパーティーを終えた後、ハイトは外へ、シエルが投げたであろう場所に行き指輪を探した。粉々になった破片すらすべて探しだした。


『これをセバスチャンに持って行けばどうにかるでしょう。』


「やはり、ここでしたか」


『セバスチャン、』


今向かおうとしていた人物が目の前に現れてくるとは思いもせず、ハイトはビックリして肩を揺らしてしまった。


「坊ちゃんの指輪、探していたのですか」


『はい、もう全部見つかったのでいまから貴方に渡しに行こうかと思っていたところなんです。』


「ハイト、貴女はいつも【ご主人様】の為に一生懸命ですね。貴女は私に飼われているというのに。」


セバスチャンはハイトにゆっくり近寄って、彼女の左胸の上に手を当てた。


「ここにある【印】お忘れにはなってないですよね?」


ニヒルに笑ったセバスチャンの顔はまさに悪魔だった。そんな彼の笑みに屈せず、ハイトは背の高いセバスチャンを睨みつけて彼の手を払った。


『貴方に飼われいるのだから、こうして尽くしているではありませんか。坊ちゃんを思うのも、すべて貴方の為です。』


「・・・、そうだといいのですが」


『では、これを坊ちゃんにお願いします。』


ハイトはかき集めたシエルの指輪をセバスチャンに押しつけるように渡して、その場を去る。彼女がいつもより冷たい態度を取るのにセバスチャンは一つため息をついた。

きっと、ハイトは悪魔と契約していることを後悔している。きっとそれに触れられたくなかったのに、そのはなしを切り出されたからイラだっているのだろう。


「・・・・・・(私が、人間に嫉妬するなんて。
彼女が人間に惹かれないと知りながらも、ハイトを愛おしく思うあまり、嫉妬してしまう。
その身は私に縛り付けられても、心までは縛れませんからね)」


また、ため息をついて執事は、小さなご主人の元へと行くのであった。


























今日の坊ちゃんのことが心配だ。あんなに激しく怒りを露わにすることはめったになく、ただ、傍観するだけの自分の無力さに腹が立った。


そんなことを考えていると、ベッドに入っていざねようとしてもなかなか眠れなくなっていて、すっかりめが冴えてしまい寝ようにも眠られなくて困った。

そんなときこそ、ふと昔の記憶がよみがえる。


ずっと、ずっと遠い昔。古びた写真のように薄けた思い出。追懐としてはふさわしくない記憶。あのとき、なぜ自分は悪魔なんかに助けを請うてしまったのか。

左胸には後悔のシルシ。

いつまでも縛られる犬の紋様。

消し去ることのできない過去。

脳裏に焼きつく悪魔の囁き。

それを忘れるかのように、ハイトに眠気はやってきた。せめて夢の中だけでも、幸せな、夢を見られたならと願いながら彼女は意識を手放した。










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