Blue rose
□誘拐事件と、天使
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目覚めた2人は拘束され、知らないところにいた。それと同時に先ほど、どちらサマかに連れ去られたことを思い出す。
いま、見張りと呼べる人間はおらず二人だけの空間だった。
『・・・・・・坊ちゃん』
多分、ドアの外には居るであろう人には聞こえないように、ハイトは主人、シエルに声をかけた。
「無様な格好だな」
『坊ちゃんだって同じじゃないですか、』
「ふ、そうだな。
お前は大人しくしていろ、セバスチャンを来るのを待て」
『ゲーム、ですか』
「そんなところだ」
『御意。
どうせ、私にはこれをはずすことはできませんし、ここにあるであろう人間を坊ちゃんを守りながら突破できる自信もありません』
「だろうな、お前が戦っている姿はあまり見ない」
『天使ですので、人間をいたぶる趣味はありません』
なんて、にっこり天使が美しいほほ笑みを見せた。それにつられたかのように、シエルもこのゲームを楽しむような笑顔を見せた。
――ガチャ、
「うるせぇぞてめえらァ!」
下っ端と思われる人物がシエルと、ハイトしかいない部屋の中に怒鳴りながら入り込んでくる。
「今のてめえらの状況わかってんのかっ!」
と、言った下っ端はシエルを殴りつけた。
その姿を見たハイトは殴った本人を天使とは思えない、怒りに満ちた目で睨みつけている。それに気付いた彼は次はハイトに標的を定めた。
「あぁ?!なんだその眼は
坊ちゃんが殴られたからってそんなに怒るなよ、その綺麗な顔がもったいねえせ?」
下っ端はかがんで、ハイトの顎を無理やり持ち上げた。
『おやめ下さい』
殺気の籠った碧い宝石のように美しい瞳で低俗な人間を睨みつける天使は、今にもその人間の魂を奪い取ろうとしていた。
「やめておけ、ハイト
人間をいたぶる趣味はなかったんじゃないのか」
それに制止を掛けたのは、例のごとく主人のシエルだ。彼は殴られて、口をきったのか血が流れている。
「何かってに口開いてんだよ、このガキ!」
また、男はシエルを殴った。それだけには及ばず、蹴りつけたり、どんどんシエルの体は傷だらけになった。
シエルは視線で何もするなと、ハイトに制止を掛けているせいで、彼女はただ唇を噛みしめ、いつもは出くわさないことを願うセバスチャンを心の中で求めた。
もし、自分にセバスチャンくらい、いやそれ以上の力があれば、目の前で痛めつけられている小さな主人を守れたのかも知れない、そう思いながら、天使であるじぶんが無様に人間などに拘束される不甲斐ない自分を責める。
「頭からあんたは別に連れて行けと言われているんだったなァ、メイドのくせに良い顔してるじゃねえか、俺と一発遊ばねえか?」
下品な笑い声が部屋に響いた。
『不快です、その笑い声。』
「生意気なこと言ってんじゃねえ!ブっ殺されてええのか?!・・・まあ良い、後でたっぷり可愛がってやるよ、おら立て」
ハイトは男に髪を掴まれ無理矢理立たされ、そのまま部屋の外まで引き摺られるように連れて行かれた。
「・・・・・・・・・ハイト」
ドアを閉められる瞬間、幼い主人の苦しそうな愛おしい声が自分の名前を呼ぶのが聞こえた。