Blue rose

□女王の戌と、天使
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「ファントムハイヴ家の者ですが」


その黒い執事はすでに、ヴェネル邸に進入していた。一つの窓からのぞく、美しい天使に一つ、ほほ笑んで。






















『お迎えに上がりますか。』


ハイトは窓の外に、悪魔の到着したのを確認して、一人しかいない部屋から彼の元へと向かった。


「五時四三分」


セバスチャンはぞろぞろ出てくる鼠をすべてかたずけ終えた。広間に降り立てば、その時ちょうどドアが開いた。


『ごきげんよう、セバスチャン?』


「これはこれはミセスハイト、こちらにおいででしたか」


ドアから入っていたのは傷一つないハイトの姿だった。白く、細い手首の赤い痕もすっかり消えていた。


「てっきり拘束されてると思ったんですが」


『されていましたよ、』


「ほう、ではアレになったんですか?」


『坊ちゃんには内緒です。嫌われたくはありません。』


「嫌われればいいのですがね」


執事は天使にも聞こえないように呟いた。その言葉がハイトに届いていたか、いないかそれは本人にしかわからない。


『何かおっしゃいましたか?』


「いえ、何も。
ハイトの大好きな坊ちゃんをお迎えに上がりますよ」


セバスチャンは誤魔化すように、話を変えシエルを迎えに行くように促し、2人はシエル救出へ向かった。






















アズーロ・ヴェネルは一種の恐怖心を心に抱いていた。

先ほどまで銃撃戦の発砲の音が聞こえていたのに、それがピタリと止んでしまい、部屋に飾られた時計の針の音だけが響く。


――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ・・・



妙に、緊張感を漂わせる。


――カチ、カチ・・・カツン、カツン


「――!!」


時計の針の音から、廊下を二つ分の革の靴が歩く音に変わる。


アズーロ・ヴェネルの銃を持つては小刻みに震えだす。


――カツン、カツン、・・・・・・・・・


ドアの前で一度足音は制止。

そして、ギィィと音を立てて、ドアが開く。


「お邪魔いたしております」


『主人をお迎えに参りました』


燕尾服の男セバスチャンと、メイド服の女ハイトは深々と礼儀正しく頭を下げた。


「は・・・は
驚いたなあれだけの人数一人でヤっちまうなんて、参ったね
それに、そのメイドまで助けちまうなんてな・・・」


あからさまに焦った表情をしているヴェネル。額に汗が流れていることもハイトは見逃さない。


緊張しているのか口数が多くなるヴェネル。


「ただの執事じゃねえだろう」


「いえ、私はあくまで執事ですよ
ただのね・・・」


何が、あくまで執事だ、なんてハイトは心の中で悪態をつき、ずっと何も言わず彼らを、この状況を傍観していた。


壁の向こうの人間が殺気をむき出しで、絵画のなかで潜んでいることもすべてわかっている。それを誰かに伝えることもせずに、ハイトはただその場で佇み、主人の痛ましい姿を見つめていた。








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