Blue rose
□女王の戌と、天使
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――バシンッ、ドダパパパパパ、
無数の発砲音、目の前を血だらけで倒れる執事。潜んでいた鼠。鼠に再び捕まるメイド。笑う大鼠。未だ拘束される伯爵。
ハイトは特に驚きもせず、ただいつもの冷やかな瞳で血まみれで、無様な、倒れたセバスチャンを見る。その瞳は、何か汚いものでも見つめる様なそれと似ていた。
ごちゃごちゃと、煩い子蠅だ。あぁ、その汚らわしい手で坊ちゃんに触れないで頂きたい。
シエルの眼帯がヴェネルの手により、ぱさりと音を立てて床に落とされる。
「おい、いつまで遊んでいる
床がそんなに寝ごこちがいいとは思えんがな
いつまで狸寝入りを着込むつもりだ」
シエルの凛とした声が部屋に響く。
ぴくりと動く死体。
狼狽するヴェネル。
ゆっくりと、死体は起き上がり、ハイトはやれやれとため息をつく。
「最近の銃は性能が上がったものですね
百年前とは大違いだ」
セバスチャンは完全に起き上がり、銃の弾をその口から吐き出した。
「何をしている 殺せぇェッ」
絶叫と断末魔に似た声を上げながら、ヴェネルは自分の下っ端に命令する。
「お返ししますよ」
ニヤリと口元が笑って、撃たれた分の銃の弾を男たちに投げた。もちろんハイトを捕まえている男にも、彼女がいるにも関わらず高速で弾を投げつける。ハイトは顔を少しずらし、自分に当たらないように避ける。
『私まで殺す気ですか』
しれっとしたハイトの言葉と同時に、その他大勢は次々と倒れ、セバスチャンはまさか、と短い返事をハイトにする。残るはヴェネル、ただ一人となった。
「遊んでいるからだ、馬鹿め」
遊んでいるのは、どちらでしょうか、と本日何回か目になるため息をハイトはつく。
セバスチャンは相変わらず趣味が悪いですね、早く坊ちゃんを助けてあげたらいいのに、この状況の坊ちゃんの姿を楽しんで、屁理屈で言葉を返し遊んでいる。
『坊ちゃん・・・、』
「おねだりの仕方は教えたでしょう?」
悪魔の囁きにも似たセリフ。
その言葉にシエルは右目の瞼を開けた。
「命令だ、僕を助けろ!」
「黙れぇぇぇえ!!」
シエルの言葉をかき消すように、恐怖でなのか、絶叫するヴェネル。
――ズガァァン
一発の銃声。
静まり返る部屋。
訳の分からなくなっているヴェネル。
無事な坊ちゃん。
いつの間にかヴェネルの背後に立つセバスチャン。
もう飽きたと言わんばかりのハイト。
そのあとの会話はほとんど聞かなかった。耳障りな叫びに耳をふさぎ、ヴェネルがセバスチャンに交渉を持ちかけているが、興味はなかった。
ハイトは拘束具の外れた坊ちゃんに駆け寄る。
『応急処置しますね』
「ああ、頼む」
天使の癒しの力で、ハイトはシエルの額に軽くキスをほどこし、傷を癒していった。
『申し訳ございません、この程度しか直りません。』
大きな傷は残っているが、傷口の血は止まり、小さな傷は痕が無いくらい綺麗に直っている。
ハイトの後ろでは、セバスチャンが「悪魔で、執事ですから」なんて、ダジャレみたいなことを言うからハイトは思わず笑ってしまう。
「ゲームオーバーだ」
この一言で、すべては終わった。