桜の華は風とともに

□一輪
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絵麻side

ここは吉祥寺

これからわたしが暮らすことになる街

新しい生活が始まる場所


学校帰り、わたしはそんな吉祥寺の住宅街を歩いている

絵麻「えーっと……この道をまっすぐだよね」
ジュリ『そのようだな』


肩に乗ったリスのジュリとこっそり会話をしながら、わたしはパパから手渡された地図を確かめた


うん、間違ってないみたい

ここをまっすぐに行けば、そこは見えてくるはず


今、わたしは新しい自分の家_______「朝日奈」家へ向かっているところだ


そこは『サンライズ・レジデンス』というマンション


わたしの知らないドキドキが待っている家


??「そこのおねーちゃーーーん!どいてーーーっ!」

絵麻「え!?」


背中から大きな声が聞こえてきた


と、同時に、勢いよく回る車輪の音


自転車がわたしに向かって迫ってきていた


絵麻「きゃっ!」


とっさに避けたけど、うっかりつまづいてわたしは歩道に倒れ込んだ


??「ご、ごめんなさい!おねーちゃん大丈夫?」
絵麻「う、うん、……平気だよ」


すごく心配そうに慌ててわたしの顔を覗き込んでくる、自転車に乗っていた男の子


(うわっ、かわいい……)

男の子にかわいいなんて言っていいのかわからないけど


でも、本当にかわいい


ふわっとした柔らかそうなショートボブがすごく似合っている


??「おいおいおい、弥、お姉さんにケガさせちゃったのか?」


(え?)


そこに現れたのは、20代後半くらいの優しそうな男の人


この子の、弥くんのお父さんかな?

??「大丈夫?ごめんね、うちの弟がやんちゃしちゃって……ケガはないかな?」


絵麻「あ、はい……平気です。少し膝を打ったくらいで血も出てませんし」


弟という言葉にハッとする
お父さんじゃなくてお兄さんだったんだ

??「本当に?どれどれ、見せて」
絵麻「えっ?」
??「あ、僕、医者なんだ。小児科だけどね。だから、少しの傷なら診られるよ」
絵麻「あ、ああ……そうだったんですか」


そう言うとお兄さんはわたしの膝をまじまじと見えくる


な、なんだかこの状況すごく恥ずかしい……!

弥「おねーちゃん、本当にごめんね」
絵麻「ううん、いいんだよ」


しょげかえっている弥くんはまるで、叱られた子犬みたい
ペタンと寝た耳まで見えてきそう。
こんな子を怒る気にはとてもなれないよ

??「うん、問題ないね。よしよし、痛いの痛いのとんでいけ〜!」
絵麻「あ……ありがとうございます」
??「どういたしまして」

お兄さんはにっこりと微笑むとわたしに手を貸してくれる


(大きくて温かい手……本当のお兄ちゃんみたい)


その手を握りながら、わたしはそんなことを思ってしまった


(もう少しすれば本当の“兄妹”たちに会えるのに)


そう、わたしは今から新しい家で兄妹たちに会うんだ


弥「おねーちゃん!」
絵麻「ん?なぁに?」


そばにいた弥くんがくいくいとわたしのスカートを引っ張り、何か差し出している


弥「これ、ごめんねのキモチ!」

手のひらを広げるとバラバラとキャンディが落ちてきた。


絵麻「ありがとう!」
弥「ううん。僕が悪かったし…」
??「弥、偉いな〜!」
弥「エヘヘ…!」


お兄さんに頭をわしわしと撫でられて弥くんはにっこりと笑った


なんだか、かわいい兄弟に出会えちゃった


わたしの『キョーダイ』になる人たちも弥くんとお兄さんみたいだったらいいな







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