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あれから、草原を走る列車に飛び乗ってクロスベルまで行き、そこから能力を使って里まで戻ってきた。

少々しんどい道のりだったけど、一刻も早く里に戻りたかったので、タダ乗りしてしまったことは心の中で謝罪した。


そして向かう先は実家。だけど、そこには誰もいない。家族4人の写真が飾ってあるだけ。

次に、墓地へ行き両親の墓石の前に立つ。




『分かってたよ、これが私の本当の記憶だって……ばかだな全く…』


一刻も早く里に戻りたかったのは、本当に自分の記憶が戻ったことを認識したかったというのもあって。もしかしたら家に帰ったら家族が待っているかもしれないなんて、いつまでこんな思いを持っているのだろうか。






「………」

『……ラルト。私は死者の眠る地を荒らす気にはなれない』

「我もだ。用心しろ」

『ラルトもね』



複数の気配を感じる。ラルトに用心するようにと言うと、瞬時に墓地を出て里の外へと出て行った。


気配の正体は猟兵団。およそ10人。急に襲い掛かってくるので剣を抜いて戦闘態勢に入った。



『……また私を研究所に連れていくのか』

「…どんな手を使ってでも連れて帰るように。死ななければいい。ただ、そう言われただけだ」

『………』



攻撃を避け続け、相手に死なない程度の切り傷をいくつも与えていく。そうしていくうちに敵の動きが鈍くなる。







「…何故、すぐに殺さない?」

『私は別に、お前達を殺しはしない。お前達が急に襲ってきたから…』



すると猟兵達はくすくすと笑い始めた。



「殺人兵器が…おかしなことを抜かす」

『なんだと…?』

「人を殺めるのに何も感じないお前が……笑わせてくれる」

『………』



この者達は、自分のことを知っている。研究所のことを何かしらで知った者がいるのか、はたまた教授が仕向けたのかはわからない。
レインは冷ややかな目を向けて、目の前にいる9人の猟兵に瀕死の傷を与えるべく雷を落とした。

そして、まだ生きている猟兵一人に近づき、剣を向けた。




『誰に頼まれた?』

「…俺を殺しても、次の部隊がお前の前に現れるだろう」

『……無駄なことだと、依頼主に伝えろ』



剣をしまうと、それと同時に猟兵は銃でレインの左肩を撃った。いつから自分はこんな甘くなったのだろうか。



『……っ』



雷を落とし、その猟兵を始末した。
左肩からは血が流れてくる。応急処置の道具を持っていないけど、とりあえず弾だけは抜く。傷口に指を入れるので傷が広がり痛みが走る。両腕がびりびりと痛みを感じるのは気のせいだろうか。




それから実家に戻り、薬を塗って包帯を巻く。これぐらいの傷なら、一晩寝れば治ってしまうだろう。

グランセル城から離れてここまで寝ずに来たのだ。さすがに睡魔が襲ってくるので、この日はもう眠ることにした。





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次の日、レインはミハルトの住む屋敷へと足を運んだ。数週間この里から姿を消していたので、なんて言われるだろう。




「レイン!」

『ミハルト…久しぶり…だな?』

「今までどこに行ってたんだ!?」

『リベールに…』


色素の薄い髪を持つ、里の次期長になる男、ミハルト・イェージル。レインの姿を見るとすぐさま手を取ってテラスへと足を運んだ。


そこにある洒落たテーブルと椅子。そこに座って、今までのことを聞かれる。




『…ちょっと面倒なことになって、この数週間リベールで生活してた』

「リベール…でも、君はリベールに行ったことはなかったよね?」

『うん。名前も知らなかった。不安だったけど、親切な人がたくさんいたから安心できた』

「……レイン、君は変わってしまった?」

『え…?』

「今、少しだけ微笑んだ。不安とか安心とか感じるようになって……君は平気で人を殺めることができていたのに」

『!……私は変わっていないよ。昨日だって、猟兵を10人殺めた』

「ああ……そう、その目だよレイン。僕は君のその冷たい目が好きなんだ」



彼は、自分の6歳年上だけど、どこか幼い部分がある。
そしてどうしてこんなにも堕ちているのだろうか。手は汚れていないけど、心が、とても荒んでいるような気がする。いつからこんな風になってしまったのだろうか。



だけど、彼の言うとおり、不安とか安心とか、そんなのは以前は感じた時がなかったような。

おそらく、記憶を消された状態で他人と関わり、喜怒哀楽を知り、そのままの状態で記憶を戻されたので心にも変化が出たのかもしれない。少々酷だ。






「ねえ、リベールの人達と仲良くなったの?」

『……いや、そんなことはない』

「そっか。でも、レインに親切にしてくれた人達には感謝しなきゃだよね。僕の方からもお礼がしたいよ」

『その必要はない。もう、向こうの人間と会う気はないから。関係のない存在だ』

「そうなの?じゃあ仕方ないか。でもさ、レイン」

『ん……?』

「向こうの人達は、君に会いたいって思ってるんじゃない?」

『…それはない。私のしてきたことを話したからな』

「そうなんだ!じゃあ会いたがらないだろうね。……じゃあさ、ライチには会えた?」

『え……』

「レイン、僕が君の大切なものを奪うって言ったから、ライチを探しに行ったんでしょ?」



レインは何も言わない。ミハルトはにやりと悪戯な笑みを浮かべた。




「まあ、レイン次第だよ。でも良かったね、リベールの人達と仲良くなってたら、その人たちも奪うところだったよ」

『ミハルト……』

「僕は、まだ人を殺したことがない。だからね、一番最初に殺すのは、レインのとても大切な人がいいなって思うんだ。まだまだ時間はあげるけどね。でも、レインがあの話を受け入れてくれたらそんなことはしないんだけど」

『ミハルト……っ!』

「!」



レインは椅子から立ってミハルトの胸倉を掴み、後ろに倒してそのまま押し倒した。



『ミハルト……お前には、大切な者はいないのか?』

「いるさ……レイン、君だけだよ」

『……私が死んだらどうする』

「もし君が殺されたのなら、僕はそいつを殺すよ」

『ああ、そうか。私もそれと同じだ。ライチを殺したら、私はお前を殺す』



殺気を込めてそう言い放ち、ミハルトから離れて立ち上がった。



「君は僕を殺せない。だって君には、聖痕があるから」

『それでも。私は……』



拳に力を入れて歯を食いしばる。

そこへラルトが現れた。



『ラルト…』

「猟兵団が里に向かっている」

『またか……狙いは私か』

「……数は15人だ」

『次の部隊が来ると言っていたしな……ミハルト、自分がいかに狂った思考を過ぎらしているのか、よく考えろ』


そう言い放ち、ミハルトの反応を見ずにその場から姿を消した。

ミハルトは立ち上がり、再び椅子に座る。



「……僕にあんな殺気を放つなんて。レイン、君は最高だよ」


ミハルトが怪しげな笑みを浮かべていたことを、レインは知らない。




   
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