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服を着替えるだけでも時間がかかってしまった。治療薬の浄化をしてもらったものの、聖痕に与えられたダメージもあるので体がとても気だるいし、頭もぼーっとするし、体の節々も痛い。


立っているのが辛いというわけではないけど、できれば横になっていたい。そう思い、再び布団の中に身を潜めようとしたが、上半身だけ起こして壁に背を預けた。



「レイン、平気か?」


扉を叩く音がしたあとに聞こえるアリオスの声。気の入っていないような返事をすると扉が開き、アリオスとケビンが入ってくる。



「調子はどうだ?」

『…まあまあ、かな…。その、ケビンさん、治療してくれてありがとうございます』

「いえいえ。回復してるようで安心ですわ」

「…色々聞きたいところだが、一先ず体調の回復を優先するぞ」


どうしてと言わんばかりの目でアリオスを見た。調子はまあまあと答えたのだから、色々と聞かれると思っていたのに。

やはりまだ不調というのは、わかってしまうものなのだろうか。見た目や、声で。



看病の為か、アリオスは今夜はここに世話になると言い出す。世話になるのはこちらの方だと言い返すとケビンは微笑した。彼は近くに宿屋はないかと聞いてくるので、どうせならここに泊まった方が良いのではと勧めた。


『…節約にもなりますし』


そう言うと、お言葉に甘えると言って苦笑いした。



どうやらこれからアリオスが夕飯を作るらしい。出来たら部屋に持っていくと言って部屋を後にした。


二人が部屋を出るのとすれ違うようにラルトが入ってきて、ベッドの側に寄った。



『ラルト…ごめんね、迷惑かけた』

「…迷惑をかけられた覚えはない」


あの二人がここにいる理由を聞いた。ラルトはアリオスを探しにクロスベルまで行ったのだと。そして一度この家に来たあと、またクロスベルに戻ったそうだ。おそらくケビンを呼ぶ為だろう。

そして一番知りたいことをやっと思い出した。






『私、どうしてここにいるの?』


覚えているのは、薄暗い部屋で横たわっていて、そこで拘束されて薬を注入されたこと。きっとそのあと気絶したのだろう。

よく思い出そうとすると、ぼんやりとしか思い出せないけど、刃を手首に当てていたような。



「あの男…銀髪の剣士が、お前を助けた」

『銀髪………』


銀髪の剣士なんて、思い浮かぶのはたった一人しかいない。



『まさか、レーヴェが?』

「…そうだ」



自分をここに連れてきたあと、自分が目覚めるまでこの家にいて、その後アリオスの名と手紙を残して出て行ったそうだ。だけど、何故彼が。

その理由をラルトは言わないので、知らないのか、それとも言わない理由があるのか。どちらにせよ、無理に聞き出すことは特にしない。


手紙は気になるけど、この部屋にはないそうだ。きっとアリオスが持っているはずなので、話をするときに見せてもらうことにした。



アリオスに会うのは確か8年ぶりだった気がする。正常のときに接した覚えはないけれど、彼のことはちゃんと覚えていた。また、彼も自分のことを覚えていた。

そんな彼が夕飯を作るだなんて、エプロンでも装着するのだろうかといらんことを考えてしまいほんの少しだけ口元が緩んだ。





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『お粥なんて…小さい頃風邪引いたときに、お母さんが作ってくれたとき以来だ…』


お盆の上に湯気の出る器と暖かいお茶を乗せて部屋に入ってきたアリオス。ベッドの側のテーブルの上に置いて、そのまま椅子に腰掛けた。




「……味は保障できないぞ」

『おいしそうだよ』



するとアリオスはレンゲでお粥を掬い、それをレインの口元に持っていこうとするので、レインは慌ててアリオスからレンゲを奪い取った。



『じっ、自分で食べれるよ…!』

「…そうか」


まさかアリオスが食べさせてくれるなんて微塵も思っていなかったので、思わず声を上げてしまった。おかげで少し咽てしまった。



『ご、ごめん。ちょっと驚いて…』

「いや、構わぬ」

『ケビンさんは?』

「居間で食事をとっている」


本当は食卓を囲んで食事をしたかったけど、こんな状態では仕方がない。お粥を一口食べてみると、味がないと思っていたけどほんのりとしその味がしておいしい。

一言おいしいと言うと、安心したと微笑み、自分も食事をとると言って部屋を後にした。ラルトにも用意してあるとのことなので、ラルトも居間へ向かった。



部屋の中は自分一人しかいなくて静かだけど、あの扉を抜ければ誰かがいる。それだけでも十分で。





『………っ』


黙々と食べ続けていると、急な吐き気に襲われた。なんとか立ち上がり、壁や家具を手すり代わりにしながら御手洗へと向かう。

改めて、自分は本当に正常ではないのだと実感する。


先ほどまで食べていたものを嘔吐し、便器の前で座り込んで咽ていると、自然と涙が浮かび上がる。


『うっ…ごほっ……』


「レイン…!?」

「どないしたん!?」

『アリ、オス…ケビンさん…』


扉が開き、アリオスとケビンを見上げると、アリオスは自分と目線を合わせるために屈んだ。




『ごめん……お粥、せっかく作ってくれたのに…おいしかったのに…』

「…無理して食べることはない」

「せやな…。それに、調子が悪いんやから、仕方のないことやで」

『ん……なんか、熱いな』



アリオスはレインの額に手を当てた。結構な熱が伝わってきたので、眉間に皺を寄せた。




「抱き上げるぞ」

『え…』


返事を聞く前にレインを横抱きにして、そのまま自室へと連れてベッドに横にさせる。



「熱がある。何故言わない?」

『……どうして、だろう』

「……今、体はどんな感じなん?レインちゃんが調子悪いのはもう知ってるんやし、正直に言ってもええんやで?」

『………』



何故こんなに優しいのだろうかと一瞬思ってしまった。特にケビンは初対面だというのに。

隠す必要もないし、確かに調子が悪いのはとっくに知られている。そもそも、調子が悪くなかったらこの二人はここに来ていない。



『正直……体は気だるいし、頭はぼーっとするし、体の節々が痛い。歩くのも着替えるのも、普段より鈍い』


きっと、その程度のことだから特に言うこともなかったのかもしれない。だけどその程度のことだけど、こうも支障ができている。確かにこの状態では全く戦力にはならない。


    

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