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すると、バタバタと足音が聞こえたので立ち上がって見てみると、エステルが慌しく宿に入るなりジンを呼んだ。


どうやら湖の向こうからボートが流れてきて、そこには気絶したクルツが乗っていたらしい。
レインは彼を見るのは初めてだった。そしてジンがクルツを担ぎ、部屋に寝かせる。ケビンが応急治療をするがかなりの怪我を負っているようだ。

全員で部屋に入り、クルツの様子を伺う。



「まさかクルツのやつがここまでやられるとはな…一体何があったんだ?」



確かクルツのチームはもう少しで《結社》の拠点を突き止められるという話だった。なので、他の3人のメンバーも一緒だったはず。

一応宿の通信機でルグランには連絡をした。すぐに各地のギルドと王国軍にも連絡が行くそうだ。



「で、でも…下手をしたらアネラスさんたちが…!」

「ええ、わかってる…」

「俺たちも出来る限りのことをやっといた方がいいだろう。問題はクルツを乗せたボートがどこから流れて来たかだが……」



ヴァレリア湖には水深が深いため島や岩場は無いようだ。

なので湖岸のどこかから流れてきたに違いない。だけどかなり大きい湖なので場所を特定するのは厄介だ。




「う……」


ここで、クルツは目を覚ました。
なんとか話せる状態なので安堵の息を吐く。場所の説明とクルツがここに流されたことを話すと、クルツは考え込んだ。

他のメンバー達と《結社》の拠点に乗り込みんだのだが、その後が思い出せないそうだ。



「クッ……なんでことだ…1度ならず2度までも…記憶を奪われてしまうとは……」


どうやら《教授》に記憶を封じられたようだ。クルツはジンに以前やったように『気』を当てるように言うけれど、あれは対症療法であり、暗示によって封印された肝心の記憶は甦らないはずなのだと。それにクルツの今の状態では負担が重過ぎる。




『(『気』……?)』

「……それやったら、オレが何とかしてみますわ」

「へ…?」

「君は……?」

「七耀教会の《星杯騎士》、ケビン・グラハムいいますわ」

『(せ、星杯騎士…!?ケビンさん、星杯騎士だったのか…)』



名前だけならなんとなく聞いたことがあるような。ただの神父というわけではなかったのかと、レインは心の中で静かに驚いた。


どうやら深層心理にまで喰いこんだエグいのになると無理だけど、一時的に封じられた記憶なら何とかなるそうだ。


そして道具を取り出し、言の葉を綴る。そして光が灯り、クルツを包む。レインはなんとなくだけどその光景に見覚えがあった。確か自分も、こんな風に言葉をかけてもらい光に包まれたのだと。



すると、霧が晴れたように色々と思い出せそうだと言ってしばらく静止する。



「……もう大丈夫。必要な情報は思い出せた……」



《結社》の拠点はヴァレリア湖北西の湖岸。そこに彼らの研究施設が秘密裏に建造されていた。そして特殊な方法で施設を隠しているようだ。上空にダミー映像を展開して空からの捜索を防ぎ、地上から接近すると周囲に濃霧が発生するようにしているらしいのだ。

その技術を聞いてエステル達は顔をしかめる。

クルツのチームは霧を抜けて研究施設に潜入したが、《執行者》と名乗る手練たちの待ち伏せにあった。完全に隙を突かれて総崩れとなってしまい、ボートに辿り着いたところで気を失ってしまったのだと。



『(執行者……)』

「クルツさん、安心して…!アネラスさんたちは絶対に助け出してみせるから!」

「ヘッ、そこまで分かってるならいくらでもやり様はあるだろう」


皆でフォローの言葉をかけると、クルツは安心したように再び気を失っていった。


一刻の猶予もないので、すぐにでも行動に移りたいところだ。だけど今回は、今までの任務とはケタ違いに危険ということ。


「…いずれこういう形で《結社》とは対決することは覚悟していたから…それが早まっただけだと思う」

「エステル…ふふ。短い休暇だったわね」

「ヘッ、充分だろ。せいぜい腹を括るとしようぜ」


ただ、全員で乗り込んだらかえって目立ってしまうので、数を絞ることにする。


エステルがあの封印区画のときみたいに選んでもいいかと言うので、皆は納得した。ただ、アネラス達に会ってもしクルツのように記憶を封じられていたときのことも考えて、ケビンが同行することは確定した。





『エステル…出来れば、私も連れて行ってほしいな』

「レイン…」

『う、上手く説明できないけど……エステル、これから一緒に頑張ってもらうって言ってた…』



私情はないと言えば嘘になる。多分私情の方が上だと思うけど、教授のやっていることは許せない。皆も同じ気持ちだと思うけど、それでも、共に行きたいとは思う。




「わかったわ。レイン、一緒に来てくれるわね?」

『ああ…もちろんだ』

「じゃあ、もう一人は……アガット、いいかしら?」

「おう。まかせろ」



メンバーが決まり、武器やら荷物やらを持って宿の外に出る。


『ラルト、皆と一緒に居てね。私に万が一のことがあっても、絶対に皆と離れないでね』

「……わかった。…だが、時と場合にもよる」


ラルトに皆といるように言い、残りのメンバーにラルトをよろしくと伝えて早速4人はボートに乗って湖の北西へと向かった。



  
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