「江流も眠れないのですか?」 「お師匠様……」 「今宵は月が綺麗ですよ。一緒に散歩など、どうです?」 月が照らす草木は美しく、昼間とは違う表情を見せる。 「なんだかデートのようですね。江流」 「はぁ……。どう頑張っても夜逃げをしている親子、ですよ。」 「夜逃げ、ですか。まぁ、人さらいの、お稚児趣味な三蔵法師よりかはマシそうです。」 微笑んだお師匠様が何を考えているのか分からないのはいつもの事で、その背中を追えば、川の流れる音が聞こえてくる場所で急に立ち止まる。 「おや……先客がいたようですね。こんな所で寝ると、風邪をひいてしまいますよ?」 その口元は俺に話しかける時よりも柔らかく、わざと声にしない何かを言ったように見えた。 「っ! お師匠様っ――」 人の姿をしているけれど、穏やかな夜の空気が一転するほど狂暴な気が放たれて、昼間に渡された札に手を伸ばす。 |