月光浴


□episode 1
2ページ/13ページ

黒い衣が、更に黒く染まる。

――何故だろうね、雨に色は無いのに……。

雨に流される俺の血は赤だ。

なのに、俺が黒に染まるのは何故だろう。


――あぁ……その紫に、その緑に、その赤に、その橙に……染まりたい。


フワリ……フワリ……舞う桜が、雨に押し潰された。




山の中を彷徨い歩く足は、ところどころ血が滲んでいた。

ビシャビシャと雨水を踏んでは跳ねて、冷たいはずの雨が生温く沁みる。

――こんな姿で部屋には帰れない。皆に何を言われるか。それに、父様に迷惑がかかるのだけは嫌だ。

生にしがみつく自分は惨めで、なぜ雨宿りの場所を探しているのかと笑う自分がいる。

もう十分生きたんじゃないのか、と。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ