ふと白い肌を思い出していた。 ――帰ったんだろう。 意外に広く感じるものだと部屋を眺めていて、畳んである黒い浴衣が目に入った。 ――服を置いて? パシャ……パシャ……。 跳ね返る小川の水を気にしている余裕がなかった。 暗い山で迷子なんて、ありえない。 野生の熊なんかに出会ったら命はないだろうし、アイツはここの育ちじゃないから、遭難したのかもしれない。 ――ここを通った方が、近道だ。 「ハァ……ハァ……。ッ……」 ――俺は何で走ってるんだよ……。 草木が体の至るところに容赦なく当たる。 もうすぐ辿り着くと思うと、焦る気持ちが俺を加速させて、痛みなど感じなかった。 |