――見つけた。 その背中を見ただけで、すぐに分かった。 だから、オマエが名乗って、すぐに覚えた。 この体に刻みつけるように。 「郷。夜は恐くなくなったか?」 文脈など考える事も忘れるほど、ずっと、聞きたかった事だった。 ソレを口にしてやっと、この数年の俺の想いが栗色へと届いた気がした。 「おかげさまで」 そう言い放った栗色は、昔より人を寄せつけない冷たさを纏っていた。 俺なんか目にも入らないといった感じで横を通り過ぎられた瞬間、フワリと肌に当たった風は、同じ匂いなのに。 圧倒されて、声が出なかった。 俺なんかよりも、数歩も先を歩く、栗色に……。 月が出て、お師匠様は友と酒を楽しんでいる。 |