短編

□卯月の花
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厨で出来上がりを楽しみに待っていた優しい味がする林檎の蜂蜜煮
寝る前に聞かせてもらった異国の御伽噺
桃色の唇から紡ぎ出されては零れ落ちる音色
暖かなお日様と甘い砂糖菓子の匂い…


その全てが幼いころボクの世界だった――――――





忍術学園の入学式から数週間が経ったある日。
春の優しい気温の中、校庭や周りの山々を見渡せば卯月の終わりなのに今だ散る気配の無い山桜が春爛漫と咲き誇っている。今の世が何処かで必ず争いがある乱世だと疑うくらい穏やかな日である。
時折聞こえるギンギーンや、いけいけどんどーんって言う情緒の無い鳴き声は無視しよう。折角の良い気分が台無しだ。



正門付近からは子供達の遊び声が聞こえる。

今年新しく入学した一年生達は個性はぞろいばかりの面々で、なかなか可愛げの………無い奴らばかりだ。
特に学園一のトラブルメーカーとも名高い、アホの一年は組!!揃いも揃って生意気な奴らばかりだ!
ある意味純粋とも言えるが、数々の後先を考えない行動には思い出しただけで頭が痛くなる。何せ学園内で起こる騒動の8割には必ず奴らが絡んでいるんだもんな。



桜の花弁がひらひらと頭上を舞う。

風が吹くたびに一枚一枚と散っていく姿に儚さを感じ、無意識にユリコの手入れをしていた手を止めてしまう。



学園に入学してから四度目の春、今年から僕は忍術学園で上級生となり、年々減ってゆく同級生達と共に憧れの先輩達の仲間入りをした。
今までは基本的に先生や先輩達から守ってもらう立場であったが、これからは自分も下級生も守る側だ。気を引き締めて行かないといけない。
人を殺めるという事への覚悟は忍者になると決めたあの日から当の昔に決まっている。
罪悪感や戸惑いが無いって訳ではないが、時代は日々争いごとの耐えないこの乱世だ。何時大切な物を失うか分からないこの時代、守るべき物とその笑顔は自分で守ると決めたから…

新たなる決意を胸に秘め、相棒を撫でる手にグッと力が入る。
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