短編

□五月晴れ唄
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五月五日の端午の節句。

頭上には何処までも続く空と鰯雲が広がる。

桜は花吹雪と共に散り、木々が青々と芽吹く。
爽やかな風が新緑の匂いを届けた―――…





五月晴れ唄





忍術学園学園長の気まぐれにより、春休みが開けて一月も経たない内に4日間の休みに入った学園は里帰りする者や休日の計画をする人達で賑う。
学園長の我侭には呆れたが、同時に感謝したのも事実。

先日忍術学園に来たゆう姉さんから文を貰い、この休みに里帰りするとの事。

丁度いい時期に授業が休みになったので、この機会を利用して姉さんに会いに行こうと思う。



僕の故郷は丹波の国と攝津の国の境目に位置して、室町時代の日ノ本では珍しい踏鞴(たたら)――、即ち製鉄作業が盛んな集落であり、周辺の国への鉄や石火矢の製作や売買で集計を立てているのだ。
幸い、村は忍術学園から僕の足で走って半日と少しの所に位置するので距離はそんなに無い。
卯の刻に学園を出たので未の刻から申の刻までには到着するだろう。

太陽の日差しが暑い。此処まで全力で走っていたから体中が汗だくだ。体に水玉模様の着物が張り付いて少し気持ち悪い。
ゆう姉さんに似合うだろうと以前町に出掛けた時買った髪紐と箸を壊れない様に手拭に包みなおして懐に仕舞う。



四年生でこの休暇に里帰りするのは僕だけだ。ユリコ達は今回は学園で留守番である。

い組の同級生である綾部喜八郎は何時も通り穴掘りに出掛け、憎き宿敵・平滝夜叉丸はどうせその辺で下級生でも捕まえてお得意の自慢をグダグダ言ってるのだろう。
休暇を終えて学園に帰ると自分が所属する会計委員会の後輩や喜八郎辺りからは土産を強請られそうだな…その姿が簡単に想像出来る…



竹筒に入った水を一口飲み、額に滲む汗を拭う。

道のりは後半分。ゆっくりしていると日が暮れるから急ごう。
一休みも出来たので荷物を背に抱えなおし、再び地を蹴る足に力が入る。
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