第1章

□第10話 鬼の目にも笑顔
1ページ/12ページ



「……何この青い手拭い」

「冷えピタです。病人は黙って看病されてて下さい」


 猿飛さんの髪をどけてそれを額に張ると、彼は驚いた様子――というより疑っている感じで、目線を上にした。


「…冷たい…?」

「冷やす布代わりですから。八時間――いえ、四刻はもちますよ」

「………冗談?」

「本気です」


 何とか言いくるめて計ってもらった体温計を見る。

 …さ、39.4度?


「……よくこれで『何でもない』って笑ってられましたねぇ……。」


 怒る、というよりここまでくると呆れるしかない。

 ひとまず飲み物か食べ物を取りに行こうかな。

 お粥でも作――――。



 パシッ

「わたっ」



 立とうとしたらバランスを崩し、前のめりに倒れてしまった。

 後ろを向けば、私の手首を掴んだ手が―――。



「……猿飛さんって淋しがり屋ですか?」

「そんな訳なっ…ゲホッ、コホッ」

「重い風邪なんですから無理しちゃ駄目ですよ!」


 咳き込んだ猿飛さんを寝かせる。

 全く、毎回ツッコもうとするから……。

 …ん?もしかして私のせいだったり?アレ?


 呼吸が整うと、彼はジッとこちらに視線を寄越した。


「……俺様さ、さっき起きたばかりだよね?」

「そうですね」

「聞きたい事があるんだけど」



 …私、予知能力は無かったはずだけど。

 この先の言葉が手にとるように分かる気が……。




「…旦那は何処?」




 やっぱりソレですか!

 この人、自分と真田さんの優先割合はどの程度のものなんだろう。

 もしや0:10?


「お子さんはちゃんといますよ。心配無用です」

「ゴホッ!?違うから、親子じゃないから………ケホッ」


 また咳き込む彼を看ていると、襖の向こうから凄まじい破壊音―――そして叫び声が聞こえてきた。




「うわぁぁあああ!!?何やってんだい幸村――!!!!!」

「け、けけけ慶次殿ぉぉおお!!!箱の中の男女がっ!!はっ、破廉恥極まりな―――――あだっ!!?」

「貴様少しは大人しくせぬか!!第一、抱擁程度でこれでは跡継ぎはどうする気だ!!」

「あ―、そりゃあ言えてるな………ってオイ。真田、何で俺の後ろに隠れてんだよ?」

「毛利殿が容赦無いでござるよ、長曾我部殿ぉ」

「お前は俺の弟か!?」

「痛いでござる―」

「あ―泣くな泣くな!男なら毛利に殴られた位でメソメソするなって!俺なんてしょっちゅうやられてんだぞ!?」

「…元親って幸村と実は兄弟だったりするかい?」

「だから違ぇよ!!」




「……ね?心配無用でしょう?」

「……そうだね」

 見に行かなくても彼等の状況が目に浮かぶような会話を聞き、猿飛さんは苦笑しながら頷いた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ