第1章
□第1話 お尋ね者の風来坊
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時刻は午後5時……辺りは暗くなってきたが…………まだまだ追っ手は緩みそうに無い。
…これ普通の人ならとっくに倒れてるよ。昔運動してて良かった…。
「いや、さすがに、もう、キツい――」
「お嬢さん!」
走りながら少し振り返ると、視界の端に派手な男性が入った。
…なんて体力してるんだろう…この人……。追い付かれちゃったよ。
当の彼は、髪を揺らしながら言った。
「次!次の角、右に曲がって!」
「えっ…?」
「さっき右に曲が………………!?」
「見失った…っ!?」
目標を探して、警察や住人はバラバラに散らばっていった。
「…ふぅ、撒いたな。」
「えぇ…。」
曲がった直後、派手な男性に腕を引かれ、茂みに潜り込んだ…否、突っ込んだ。木の葉が掠めてできた傷が地味に痛い……。
「よく、此処が茂み、だって分かり、ましたね?」
「1日逃げ回ってたからこの場所の地形は、嫌でも大体覚えちまったよ。」
息も絶え絶えの私と違って、彼は茂みから頭を出してキョロキョロと辺りを見ていた。
…凄い殺気だってるのは気のせい…?
息が整い、やっと私は彼の先程の言葉に反応した。
「…どうして追いかけられてたんですか?」
すると彼はピタッと止まり、ぎこちなく振り向いた。おびただしい量の冷や汗が流れているのは、気のせいでは無いだろう。
気が動転していて気付くのが遅れたけど、彼の容姿は、千夏ちゃんに聞いた『不審者』の外見と酷似している。
……まさか……。
私は猜疑心に満ちた目をしていたのだろう、彼は大慌てで弁解してきた。
「ちょっ、待った、お嬢さん!!確かに『不審者』って叫ばれて追われてたけど、事情があんだって!!」
「自分で不審者だって認めましたね。」
「いや、だから違………………グッ!!」
彼は呻き声をあげ、いきなりパタリと倒れた。
「……え?ちょ、えぇえぇぇぇ!?大丈夫ですか!?しっかりして下さい!!不審者さん!不審者さあぁぁあ――――ん!!!」