第1章

□第3話 オクラin動物園
2ページ/9ページ


 本来なら15分かかるだろうその道を、彼は僅か3分足らずで駆け抜けた。
 それには驚いたが、この後のことにはもっと驚いた。


「…し、閉まってる…。」

「えぇ!?」

 動物園に着く直前、門前に人だかりが見えたから何かと思ったら…なんと門が閉まり……閉園していた。

 確か、花阪動物園の閉園時間は午後5時のはずだ。今はまだ4時になったばかりなのに……。




 『花阪動物園は本日は臨時閉園とさせていただきます。ご了承下さい。』

 アナウンスが門前に響く。

 何かあったのだろうか…嫌な意味で慶次君の不安が当たってしまった。

「ま、まさか敵襲…」

「違いますよ!?」

 とりあえずオロオロする彼を待たせ、正門のスタッフの元へ駆けた。


「…あの、何かあったのですか?」

「いや、実は――」

「夢吉は!?」

 隣を見ると、慶次君がすでにそこにいた。

「は?ゆめきち…?」

 話がややこしくなる前に、簡単に言う。

「彼はその………此処で預かっていただいている子猿の……飼い主でして。」

「…あぁ!あの子猿の!来てくれたのですか。」

「おぅ、今は何処にいるんだい?」

 そう聞くと、スタッフの方は渋い顔をした。



「今は…園内の管理室にいますが、見ての通り入場は出来ませんので……。」

「一体何があったんだい?」

 スタッフは困惑した表情で、言葉を続けた。





「園内に、不審な男が現れまして…今は捕縛作業中です。」





 ええぇえぇぇぇ!?

「ただ、凄まじく強いらしくて今はお手上げ状態のようです。」

「…た、大変ですね。」

「全くです…昨日も不審者が出たらしいですし、どうなってるやら……。」

「ハ、ハハ…。」

 思わず隣を見れば、彼はひきつった笑みをしていた。
 …この人が噂の不審者です、なんて言ったら…どんな反応を返すだろうか。



 そう考えていると、不意に慶次君が口を開いた。

「それってつまり…お客さんが怪我しないように配慮したってことかい?」

「え?えぇ、はい。」

 スタッフに聞いてから、彼はクルリと、此方に顔を向けた。

「お涼ちゃん、ちょっくら行って来るな!」

「…?何処にです?」

「ん、あん中に。」

 あれって、動物園…。





「…えぇぇぇ!?ちょ、危ないですよ!?」

 そう言ったときすでに彼はピュ――っ、と門の方に走っていた。

「心配すんなって!俺結構強ぇんだからさ!!」

 危険地帯に行くときに、なんでそんなにキラキラした笑顔を浮かべられるの!?

 スタッフを押し通り、彼はすぐに園内に姿を眩ました。



「…う―…………仕方無いっ!!」

「ちょっ…お嬢さん!?」


 スタッフの隙をついて自分も動物園に侵入した。

「すぐに連れ戻してきますっ、それから入場料は後でちゃんと二人分払いますから、ごめんなさい!!」



 『そういう問題じゃない』と聞こえた気がしたが、無視して全力疾走した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ