第2章

□第44話 甲斐戦、決着
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 息を切らせながら城内を走る。

 
 行き交う皆さんにろくに挨拶もできないまま、親友と2人で走り続け。

 伺いも立てないまま、障子を開け放った。




「――!!!」




 部屋の中央に横になっているお館様。
 この前倒れたときよりも、ずっと苦痛に歪んだ表情を浮かべていた。

 その横で沈痛な面持ちをしている皆さんに、千夏ちゃんが近付いていく。



「お館様の様子はどうです?」

「あぁ、源殿……悪くなる一方で、医者も………もう、打つ手が無い、と……!」

「…そんな…」



 呆然と呟きながら、お館様の側に座り込む。
 手を握っても、ぴくりとも動かない。

 むしろより一層、彼の命が尽きようとしているのを感じてしまって。




「…こんなの、あんまりですよ」



 手が震える。

 甲斐を、この人を助ける為にここに来たのに。
 私は、何もできない。




「……幸村君、佐助さん…」




 ――…ごめんなさい。

 内心、何度も彼等に謝りながら、ただただずっと彼の手を握り続ける。



「せめて、アレがあれば何とかなるかもしれないけど…」

「へ?」



 ボソッと呟かれたその言葉に顔を上げれば。

 目が合った千夏ちゃんは『しまった』というように視線を泳がせた。



「アレ、って何…?」

「い、いやー、何でもないわよ?」

「千夏ちゃん!」


 じーっと見つめていれば、観念したように息を吐いて、渋々彼女は口を開いた。


「…私らは護り人だって、言ったじゃない?」

「うん」

「4人それぞれ婆沙羅を持ってるけど…アンタのだけは、特別なの」

「特別?」



 アタシも話に聞いただけだからあやふやだけど、と彼女は続けた。



「『他者を癒し、盾となる光』…」

「え?」

「まぁ要するに、アンタの婆沙羅はどんな傷も病気も治しちゃう優れものなのよ」



 まだ覚醒してないんだから仕方ないけど…と、言いにくそうに呟く彼女の言葉もろくに聞かず。

 私は、森でのことを思い出していた。





 あのときの、光。

 それに触れる内に元気になっていった、あの男の人。





「…千夏ちゃん」

「どうしたの、急に変な顔して」

「……お館様、助けられるかもしれない…」

「え?」
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