NOVEL

□一時の闇に潜む真
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ネズミは瞼を開けた。
見慣れた天井が見える。
地下室だ。いつもと変わらない部屋。

―あの闇は…夢か。何故、あんな夢を。

「ネズミ!よかった」
「紫苑?」

ネズミの視界にベッド横から身を乗り出している紫苑が映る。その顔は酷く疲れているようで、安堵に軟らいだ表情からでも疲労が感じられる。
声も少し擦れているか。


「ずっと、起きなかった」
「どれくらい?」
「わからない…でも、朝もお昼も…起きなかった」
「…結構な時間だな。その割に心地の良い夢じゃなかったけど。まったく…綺麗な夢くらい見てもよかったんじゃないのか」
「ネズミ、夢がどんな内容だっていい。でも…本気で、心配したんだ。呼び掛けても返事も反応もなくて…目を覚ますかすら…」

擦れた声が震えだす。紫苑は唇を強く噛んだ。しかしネズミを失うと思った恐怖が蘇った今、震えは治まらなかった。
前もこのようなことがあったが、今回ほど深く、静かに眠り続けたのは初めてだ。
紫苑は胸が苦しかった。そんなネズミをただひたすら見ていることしかできない自分が嫌だった。

―何もできない

紫苑はネズミのお荷物でしかない、ネズミの負担にしかなっていない。そう思い続けていた。今もそうだ。
ネズミが倒れてしまった時、自分は傍にいてやることしかできない。
原因も何も分からない状況では自分の中にある知識も無意味になる。それを紫苑は感じていた。

「紫苑」

ネズミが俯いている紫苑に向かい、落ち着いた声で名を呼んだ。
唇を噛み締め小刻みに震える紫苑の姿はあまり見ていたくなかったのだ。
だが、一人思考を巡らせる紫苑にネズミの声は届かなかった。

「紫苑」

もう一度呼ぶ。
すると紫苑の肩が驚いたようにびくっと動き、紫苑はネズミを見上げた。
今度はネズミの声が届いたのだ。

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