NOVEL

□汚れぬ心の行方
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「でもなんであんた外にいた?」

地下室につくと椅子に腰掛けたネズミがスープを温める紫苑に声をかけた。
蝋燭の炎に照らされるネズミの横顔は妙に綺麗で心が落ち着く。

「今日は仕事がなかったし、クラバットやハムレットも眠っていたから、ちょっと散歩でもって」
「ここの暮らしになれてもあんた一人じゃいつ殺されるか分からない。あんまり理由もなく歩くな」
「…ごめん」

紫苑は口篭った。
紫苑の本心は違う。散歩などではなく、朝から姿が見えなかったネズミがお昼になっても帰ってこない、様子を見に行ったのだ。
劇場は一度だけだが出向いたことがある。
酷く怒られはしたが後悔はなかった。
その場に今日も行こうとした。
なんとなく、舞台にいると思ったからだ。

スープが出来上がり紫苑はテーブルへ持っていくと椀にスープを注いでスプーンと一緒にネズミに手渡した。
紫苑はソファーに腰掛け、スープを飲み始める。
暫くの沈黙の後、紫苑からその沈黙を破った。

「ネズミ」
「ん?」
「良かった」
「…は?」
「きみが、あの人たちに襲われなくて…よかった」
「あんたに心配されるほど俺は無防備でもひ弱でもない」
「違う。…違うんだネズミ。ごめん、違う…。そうじゃなくて、ネズミが襲われた姿なんて…見たらきっと壊れてしまう」
「壊れる?あんたが?」
「…うん。というより、壊してしまうかもしれない」


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