銀高シリーズ集
□猫杉の思い出
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俺が銀時に拾われてもう二年になる。
拾われる前のことはよく覚えていない。
覚えているのは、頭の痛みと大きな絶望感と雨の冷たさ。
どこから来たのか、誰といたのかなんてわからない。
もう死ぬのか、と寒さであまり働かない頭で感じ、目を閉じて身体を丸めた。
『何やってんの?お前。』
突然頭上から降ってきた声に目をあける。
真っ白な、雪みたいに白い髪をした人間の男。
髪は白いのに眼は鮮血のように赤かった。
『あ、起きた?よかった、死んでんのかと…。』
頭が痛ぇ。
身体も冷えきって声が出ねぇ。
『…歩けそうにないな。よいしょっと。』
身体が浮く感覚。
男が俺を抱き上げた。
とっさに抵抗しようとしたが、寒さで弱った身体は動いてはくれない。
…クソッ…。
これから何処かに売り飛ばされるのだろうか。
冗談じゃねぇ。
「ど…こ…連れてく気だ…。」
『お、喋った。どこって…俺ん家?汚ぇけど文句言うなよ。
あ、俺坂田銀時ね。』
お前は?と聞かれて唯一覚えていた自分の名前を吐き出した。
「し…すけ。…高杉、晋、助。」
『晋助ね。てかお前ちゃんと喋れんだなー。猫耳生えてたから「にゃー」とか言われたらどうしようかと思ったわ。』
それからこいつは家につくまで一人でずっと喋り続けていた。
俺は眠くて、こいつの背中が温かくて、心地よい睡魔に身を任せながらそれを聞いていた。
ようやく家に着いたらしい。
『もう歩けるか?風呂入ってけよ。廊下出てすぐそこだから。』
廊下の奥の扉を指差して言ってくる銀時とか言う男。
「フロ…?」
そこに何があるってんだ?
『うん、風呂。寒いだろ?』
確かに寒い。足先は今にも凍っちまいそうだ。
「フロってなんだ。」
まず俺はフロと言うモンを知らねぇ。
『お前風呂入ったことないの?野良猫?
んー、温かい水に浸かるって言ったらわかるか?』
散々雨に打たれたのに、何が嬉しくて水に浸からなきゃいけねぇんだ。
それに濡れるのは好きじゃねぇ。
「水は嫌いだ。」
そう言うと、銀時は何か考える素振りを見せ、
『じゃぁタオル取ってくるから。待ってろ。』
そう言って俺から離れようとした。
一人に、なりたくない…っ
「嫌だ。」
『……。』
「…一人に、すんな。」
お願いだから…
『わかった。』
そういうと、銀時は俺の頭を撫でた。
「…ん……ちゃん、…晋ちゃん。」
「んあ?」
「コタツで寝るなって言ってんだろーが。」
…夢…か。
懐かしい夢見たな。
「もー、寒いなら風呂入って来なさい。」
母親かテメェは。
でかい図体に似合わねぇエプロンしやがって。
「フン…水は嫌いだ。」
拾ってくれて、ありがとう。
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