そううけっ!

□第四章
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side:翔


体育祭とか、超だるいんですけど。毎年やる意味が分かんない。ミスコンも馬鹿馬鹿しい…ただ…面白いことになったら…ちょい楽しみかも。


ゆるーいキャラも全部あの人のため。こういうキャラだったらあの人に近づきやすいじゃん?
それだけじゃない。
同時に変な虫を寄せ付けないためってのもある。
まあ、あの人に変な虫がついたら、俺そのゴミ虫を潰しちゃうだけどね〜。

俺のキャラを隠すためってのもある。

馬鹿っぽく振る舞ってるけど、俺ってばほんとは頭いーんだよね。

まあ…ふとしたことから俺の本性の一部はあの人にバレてしまったわけだけど。




一年の秋の定期テストの時のこと。
隣のクラスの今まで全科目満点の人物が今回、一科目満点を逃したらしい。
その渦中の人物とは、一ノ瀬蜜であった。

一体何の科目で、どこをミスしたのか。
一ノ瀬蜜は噂には聞いたが、あまり興味が沸かなかった。俺はいつも平均点をキープしていたからレベルが違う。そもそも努力とか俺に似合わないし。カッコ悪い。


定期考査の結果が返却された。こんな俺だけれど、日本史だけはいつも満点をキープしていた。今回もそう。よし。カッコ悪いから心の中でガッツポーズをする。


その日の午後、寮の部屋に帰ろうとエレベーターに乗った。
それが俺の運命を変えた。

エレベーターの扉が閉まろうとしたその時に急いで乗ってきたやつがいた。
下手したら挟まるところだったので、俺は開ボタンを急いで押した。

「何階?」


ボタンの前にいたので俺は尋ねた。にもかかわらず返事がない。その男子生徒は俯いたまま無視を決め込んでいるようだ。俺の親切心を無下にするとは…いい度胸だ。


「おい、聞いて…」


驚いた。こいつは一ノ瀬蜜ではないか。
顔は知っていたのですぐに気が付いた。
けれど、俺の知っている一ノ瀬蜜ではなかった。なぜなら、目の前の一ノ瀬蜜は必死に声を堪えて泣いていたから。

「おま…え、どうしたの。だいじょぶ?」
「う…っせ…うっ…なさけねー…」


この一ノ瀬蜜はきっとすごくプライドが高いんだろう。泣き顔を見られまいと必死に隠しているようだった。俺は普段とは真逆であろう、一ノ瀬の顔を知ったような気がして、なんだか嬉しくなった。

泣き腫らしたようなその目が、俺を睨んでいた。
きっと俺がにやついていたから、かな。


「なに…笑ってんだよ…」
「蜜くんはなーに泣いてんの〜?」
「泣いてなんか…ねー!」


あらあら、そんな真っ赤な目で何を言ってるのか。
俺はいつものキャラで一ノ瀬蜜に話しかけてみた。意外にも面白い反応するじゃん。


「俺、1-Eの三橋翔。よかったら友達になろ〜?」
「うっせ…」
「つれないなぁ〜泣いてたこと、ばらしちゃうよ〜?」


ちょっとずるいとは思ったけど、それを言ったら蜜は明らかに動揺したようだった。


「ふん…翔、かよ。俺は8階だから早く押せ」
「…」
「なんだよ、翔。あほみてーな顔して…8階って言ってんだろ」
「う、うん!押すよ〜!てか俺も8階!俺達ってやっぱ運命?」



ずるい提案をした俺を咎めることなく、名前を呼んでくれた。それが蜜なりの友人になっていいという、よろしくという挨拶なのだと、蜜の声色から分かった。
「運命」と俺が言ったことに蜜は柔らかく笑って、「やっぱお前バカだよ」と言った。


その瞬間、俺の心は蜜でいっぱいになった。





後で聞いたことだけど、蜜が泣いていたのは日本史で満点を逃したからだったらしい。点数を聞くと97点。それぐらいいいじゃんと言うと「満点のお前が何を言ってんだ」と殴られた。

2年生になった今は、同じ生徒会としていつでも蜜のそばにいられる。
気持ちを伝えるのは、まだ先でいい。
蜜と一緒に、こうしていられる今を大事にしたい。
性欲を抑えられなくなったら、セフレで発散する。そのことは蜜には内緒。今までも、これからも。
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