そううけっ!

□とりっぷ!
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目が覚めたら見知らぬ土地に寝転がっていて、姉そっくりな胡散臭い妖精?のような奴に馬鹿にされ、挙句なぜかピンチ、である。

だが俺は草むらから出てきた姿を見て更に驚くことになる。


「…え」
「おい、聞いているのか」
「…」
「おい!見るからに怪しいな…お前は何者だ」


そう言って金髪の美しい男は俺に厳しく詰め寄る。彼の右手には真剣が握られており、いつでも臨戦態勢、といったところだろう。
だが、いつ切りかかられてもいい状況でも、俺は言葉が出てこなかった。
なぜならば…



「か、翔ぅぅ?!」
「…何を言っている」


そう、恰好や口調こそ違うものの、彼の容姿はまさにさっきまで生徒会室に一緒にいた三橋翔そっくりだった。というか本人なのでは?とすら考えてしまう。

あれ、もしかして本人なんじゃないか?
森に来て、異世界にトリップしたぜどうしよう!っていう大掛かりなドッキリをしようって魂胆だろう。じゃなきゃ翔そっくりな奴が出てくるわけねぇ。

なんだ…まじでトリップじゃなかったか。
よ、よかった…俺は少し安堵した。


「翔…お前帰ったふりしてこんなドッキリを仕掛けるとは…まじでいい性格してるな、オイ?あとで覚えて…」
「さっきから何を言っているのかさっぱりだが。俺の質問に答えろ」
「…っ!」


完全に翔だと思った俺は一歩、目の前の翔に近寄った。
その瞬間、目の前の翔は素早く右手の剣の切っ先を俺の首筋にあてがったのだ。


「このままお前をここで始末してもなんら問題ないが」
「ちょ…冗談、だろ」


眼前にある綺麗な琥珀色の瞳とかち合う。
彼のとったこの行動は、おそらく本気だろう。本気で、俺を殺すつもりだ。
眼がそう言っている。
なにより、そんな行動をとることこそが、翔とは全くの別人であることを証明していた。
こいつは翔ではないのだ。

俺が現実逃避をしていると、目の前の美男子はさらに真剣を首に食い込ませる。やばい、これは本当に…


「い、」
「い?」
「一ノ瀬蜜だ。それが俺の名前だ」
「…イチノセミツ…?変わっているな」

どうやらどこが苗字でどこが名前かわからないらしい。日本語を流暢に喋っているくせに、変な奴だ。

「一ノ瀬が苗字で、蜜が名前だよ。一ノ瀬って苗字、別に珍しくねぇだろ」
「ミョウジ?なんだそれは」
「…?名前名乗ったんだから…これ、どけろよ」


なんだか会話がかみ合っていないような気がする。
とにかく名前を名乗ったんだからこの物騒なものをしまってほしいといえば、彼は不服そうではあったが、一応剣をしまってくれた。
そういう素直なところは翔に似ているかもしれない。


「私はユチ・エーレだ。お前のことを信用したわけではないことは忘れるな」


剣こそしまってくれたものの、相手は全く警戒を崩さないし、そして名前から察するにいよいよ異世界トリップの可能性が色濃くなってきた。

さて、どうするよ、俺。
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