短編小説

□続・扱いにくい部下
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部下の様子がおかしい。
初めて新人の桂木とサシで飲んだことが記憶に新しい。というか、それがついおとといのことんだけどな。

その時…酔っていてあまり覚えていないといえば、そうなのだが…気のせいでなければその桂木と、その…キスを…


「課長〜、大丈夫ですか〜?」
「うわわわわわわな、なんだ佐竹?!」


呑気な声で現実に急に引き戻される。
…そうだ、そうだ。俺は今会社で仕事中で、俺はこの営業部の課長の斎藤智だった…

「…課長まじで大丈夫っすか〜?なんか顔も赤いっすけど」
「何もないから、大丈夫だから、仕事に戻れ!」


は〜い、とゆるい返事をする新人の佐竹は、まだ俺の様子がおかしいことに突っ込みを入れたかったようだが、さすがに上司に言われて席に戻っていった。
一年目の社員に心配されるだなんて…上司失格である。

あの日、俺は酔いつぶれてしまって、情けない姿を桂木に晒してしまい、送ってもらった挙句泊めてもらったのだ。そこで何があったかとか…詳しくは思い出したくはない。桂木も俺もあの日はどうかしていたのだ。きっとそうに違いない。俺は完全に酔っ払っていたが、桂木も結構飲んでいたから…うん、そうだ。彼も普段とは違うことをしてしまったに違いない。
それにあの日以来、以前よりは話すようになったかもしれないが…それにしたって桂木とはコミュニケーションが著しく少ない。
あの日のことは、お互いのためにも話題にしない方がいいのだ。あいつも一切そのことは話してこないため、いっそあの日の出来事が全部夢だったんじゃないかとか思えてくる。夢にしては現実味がなさすぎるけど…桂木のキャラでもないし。


はあ…仕事中に俺は何を考えているんだ…集中集中…っと。
そう思ったら、昼食の休憩時間を告げるチャイムがなった。社員は皆やっと休憩だとばかりに一気に騒がしくなる。
ああ、そんな時間なのか。昨日は二日酔いに悩まされ、今日は新人との距離の測り方について考えていたら時間が経ってしまっていた。
…以前よりも部下の扱い方が分からないんだけど…助けてほしい、切実に。


「斎藤課長、」
「はい!」


突然呼びかけられ、顔を上げるとそこには…


「あの、少しよろしいですか」


いつも通りの涼しい顔をした期待の新人・桂木がこちらを見つめていたのだ。以前ではあまり見られなかった微笑みをたたえて。
 

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