短編小説

□恋の言葉
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[チューリップ/博愛]

みんなで仲良しこよし、なんて言葉は嘘だ。そんな薄っぺらい言葉なんてとうの昔に信じなくなった。俺の周りにはそんな仲良しこよしできる人なんか、一人もいない。
いつからこんなことになったのだろうか。人と話すことは嫌いではなかったのに。このクラスで一番の優等生である人気者に嫌われてしまったせいだ。
彼は女神に愛されたような存在であり、当然のごとくクラスのみんなにも愛された。キラキラとした笑顔や、人当たりのよい雰囲気、誰とでも仲良くできる、そんな彼、飯塚みちるは博愛主義者だった。皆にも博愛される存在、とでもいっては過言ではなかったのだ。
クラス替えをして、初めて飯塚と同じクラスになった高校二年の春、俺は飯塚と初めて言葉を交わした。
そう、一方的に。
「悪いけど、僕、君とは仲良くできないんだ」
ごめんね、安井くん。と、彼は女神に愛された美貌の笑顔で残酷な言葉を告げたのだ。俺が何かしたのだろうか。席だって、最初は名前順だからむしろ離れている方なのに、わざわざそんな残酷な事実を告げるために博愛主義者はここまでやってきたのだろうか。そうとしか思えない。
そうすると一転して、前後の席になって話していたクラスメイトたちは、俺に話しかけてこなくなった。一体、どうして。
俺の高校生活は、この一言で破綻してしまうのだろうか。絶望という言葉と感情が頭の中をすぐに侵食していったのだった。
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