短編小説

□恋の言葉
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ああ、またか。
窓際の机は水浸しで目も当てられない状態だった。椅子には雑巾が水浸しで、とても座れる状態ではない。
最初はヒステリックにでもなってクラスの人間に当り散らしたりしてやろうか、と考えたりもした。けれどそんなことをしたところで奴らの思う壺だし、ますますエスカレートするのではないかと考えて、諦めようとした。彼らが飽きるのを待とうとしたのだ。
だがそんな状態も放置ばかりできないようになってきたのだ。恥ずかしい話、最近食事も戻すようになってしまったし、何より授業中にもストレスしか溜まらないのだ。クラスでも誰にも関わらないように、できるだけ誰とも顔を合わせないように生きてきて、自分も気にしないでいこうとひらきなおろうとした。だが、存外人間は鈍感でもないらしく、やはり精神的にはどんどん弱っていった。
それもこれも、あの飯塚のせいなのだ。
初めて接触をもってきたあの日から約一ヶ月が経とうとしていたが、俺はもう限界だった。両親には顔色も芳しくない息子に何かあったのではと思ったのだろう、いろいろ探りを入れてきたが、なぜかそういう時は意地を張って心配をかけまいと、無理にでも笑顔を作って学校には登校した。ただし、保健室に通った。幸い保健室の先生は俺のとりとめのない、うまくない話を聞いてくれたし、相談に乗ってくれた。
俺のことを見て、話しを聞いてくれた人はこの一ヶ月で、この学校では先生だけだった。

「辛い時は、大人を頼っていいから」
そう言って頭を撫でてくれた先生の言葉でいろんな感情が一気に押し寄せてきて、俺は一ヶ月ぶりに泣くことができた。感情を押しとどめていたんだ、とそこで初めて気づいたのだ。
「あ、りがと…ざいます…」

震えて出た言葉に対して、先生は頷いて「どういたしまして」と返してくれた。
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