短編小説
□あなたまでもうすこし
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「はぁ…」
「またため息かよ」
「悪いかっ、俺だって悩みはあるんだよ」
抗議をしたものの、会話の相手はすぐにまた本に目を落とした。
こいつは高校の時からの同級生で、腐れ縁の悪友、田村慎之介。
イケメンなくせに着飾ろうとせず、大学にはいつもスウェットで来る。でもそんな格好も様になるからイケメンは嫌いだ。あ、樹兄ちゃんは別だけどね。
ここはとある講義室。大学の昼休みは人がまばらでなんだか好きだ。
いつもの様に慎之介と昼飯を食べていた。
「はぁ…」
「溜息、うっとうしい」
「うっるさいなーもう」
確かにため息ばかりつく俺自身にも嫌気がさすよ。
けどなー…
「また例のお兄ちゃん絡みかよ」
ブッ!
慎之介くん…不意打ちはよくないぜ不意打ちは。
「あのな…おまえ…ちょっと…」
「バレバレなんだよ、もう」
慎之介は読みかけの小説をぱたんと閉じると、俺に向き直った。
本の虫である彼は、今芥川にはまっているらしい。
「目が泳いでる。ノブは嘘つくとそうなるんだからすぐわかる」
「う…」
さすが腐れ縁。俺の癖までオミトオシってわけか。
それにはこの青山伸輝(のぶてる)もかなわないってものなのだ。
「俺はノブを応援してーなーって思ってる」
「…おう」
抑揚のない声で言われてもなんか実感わかないけど…俺はちょっと感動した。
「で、単刀直入に聞こう」
「おう!」
「樹お兄ちゃんとヤりたいとかまで考えてるの?」
ブッ!!
俺はこいつに樹お兄ちゃんを想っていることを話したことと、こいつと悪友であることをちょっぴり後悔しながら本日2度目のコーヒー牛乳噴出を決めたのだった。
シンにすごく嫌な顔をされたのは無視した。