短編小説

□扱いにくい部下
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桂木のメールが来てからは仕事に集中しようとしても無理で、いつの間にか退社の時刻になっていた。午前中に集中していたせいか、なんとか仕事は終わらせることができた。

だが…


「斉藤さん」
「!はい…」
「行きますか」
「…はい」


なぜ敬語なのかは自分でもわからない。きっと知らないうちにこいつにビビっているのかもしれない。こちらが上司なのに全くもって情けないのだが…仕方ない。

今まで誘ってもピシャリと断り続けていた桂木が、向こうから誘ってきたのは一体どういう風の吹き回しか。
俺が不審がるのも自然なことだと思う。


「斉藤さん、…」
「何…―」


目が合った瞬間。

桂木の瞳が悲しく揺れた気がした。
なぜそう思ったのかは、わからないけれども。



背広を正して、俺はスタスタ歩く桂木と少し距離をとってついていった。










桂木が案内してくれたのは居酒屋。あまりこ洒落すぎてなく、俺にもくつろげる空間だったことに安心した。予約してあったらしく、桂木の用意の良さに感心したのだった。
とりあえず腰を下ろし、適当につまみを注文する。


「意外だったよ」

お前から誘ってくるなんて、とこちらから切り出した。
桂木が一向に喋る気配を感じさせなかったからだ。

「斉藤さんが、…」
「俺が…どうかしたのか」

何か言いかけて、桂木は再びビールを口にした。どうやら言いたくはないらしい。
これなら長期戦か、と俺もビールを煽った。





後悔先に立たずとはよく言う。
全くその通りだ、今の状況というのは。



「斉藤さん…そんなに飲んでないじゃないですか…」
「うる…せー………」

あれから二時間。
沈黙の飲み会は桂木の溜め息で展開を見せた。俺はというと…結構酔っ払っていた。

酒は強くはない。むしろめちゃくちゃ弱い。
だから飲み会でもひたすら烏龍茶で、帰りに運転手になることが常だった。

ビール缶一杯で真っ赤に酔っ払ってしまう俺が、今日はジョッキ二杯飲めただけでも奇跡だ。なんでこんなに飲めたのか、自分でも不思議だ。



「飲めないくせに…」
「…桂…木」
「……」


無表情な後輩の困ったような顔が見れて、なぜか胸が高鳴った。

そして俺は、意識を手放したのだった。
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