短編小説

□短い短いお話
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優等生×おばか



俺は最近困っていることがある。

隣の席の優等生がジロジロと俺を見てくることである。

優等生は田沼という。下の名前は…えっと、忘れた。そう、下の名前も知らないのだから、俺と優等生の関係はそんなものなのだ。実際、俺は奴とまともに話したことがない。このクラスになってもう2か月以上は経つのに、だ。

それもそう、田沼はこのクラス、いや…学年1位の優等生で、はたまた俺、高野純也は学年で下位争いの常連者であり、落ちこぼれである。

高校2年でこの成績なのだから、もう大学進学はハナから諦めている。だって勉強嫌いだし。俺は昔から実家の料理屋継ぐって決めてるし。いいんだ、いいんだ…たとえバカ呼ばわりされてても…うん、ちょっとつらいけど、いじめられてるわけじゃないし。俺は明るいおバカなのでオールオッケーなのである。



そして話は冒頭に戻る。こういうことを考えている間さえも、奴は俺の方を見てくる。しかも俺が不意に見やると目を泳がせて逸らす。そちらを向いていなくても、遠慮気味に向けられるから余計に気になる。

なんなんだ? 天才すぎて授業聞くよりも、馬鹿の観察した方がいいってことか?


あまりにイライラしたので、その日の放課後、思い切って田沼に話しかけてみた。


「なあ、田沼」
「! ななななんだ、いきなり藪から棒に!」
「やぶ? 俺は高野だけど」


俺が話しかけると、奴は大袈裟に驚いたようだった。なんだよ、人をお化けみたいに。
田沼が発した言葉は初めて聞いたので、とりあえず名前を名乗っておいた。もしかしなくても、俺を見ていたのは名前を知らなかったからとか?それならそれで、結構ショックである。


「…知ってるよ、高野純也だろ」


彼は少しあきれたような顔で呟いた。小さな声だったけど。俺は耳がいいんだ、聞き逃しはしなかった。俺の名前!しかもフルネーム!

「…うわ!知っててくれたのか!さんきゅ!」

素直に認識されていたことがうれしかった。俺をジロジロ見てくる変な奴だけど、頭いいし、いいやつなのかもしれない。素直に笑ってお礼を言っておいた。

「! あ、当たり前だろ!お前のこと知らないはずがない!」
「? 当たり前なのか?」


いまいち会話がかみ合わないような…俺が首をかしげると、田沼は顔を真っ赤に染めた。どうかしたのだろうか。

「い、今のはなしだ! 純也、忘れろ」
「うーん…そうなのか? あ、てかさ!」
「なんだよ」
「田沼の下の名前、なんだっけ?教えて!」



その瞬間、田沼ががっくりと肩を落としたことに、俺は再び首を傾げた。
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