短編小説
□隣のかっこいいアイツ
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俺の隣の席のイケメンはほとんどと言っていいほど寝ている。一番後ろのドセンターは、まあ、先生の教卓と被って見えにくいのは当たり前だろう。けれど、こいつの属性を今一度言おう。イケメン、だ。
イケメンはどこにいても目立つ、というのはこの世の中の真理である。つまり寝ててもオミトオシなんだよ、ってこと。
ぎろりと睨みをきかせる教師とは打って変わって、隣の席のイケメンはご丁寧に寝息まで立てて熟睡中だ。
「竹本、お前、梅田を起こしてやれ」
「…はい」
うわ、まさか俺にそのお役目が回ってくるなんて。予想はしてたけど。だってイケメンくんの隣、俺とは反対側の子は思い切りヤンキーで、その彼も寝ているから。ヤンキーくんは起こさなくていいのかと突っ込みたいが、じゃあお前ヤンキー君も起こせ、と言われたら嫌なのでそこは口をつぐんでおく。
まあ、俺がイケメンを起こすことも微妙と言えば微妙である。
正直隣の席のイケメンとは一度も話したことがないからだ。
入学して早3か月とちょっと。季節は過ぎ去り、梅雨も超えて暑い暑い夏真っ盛りである。だが、俺は隣の席のイケメンとは話したことがなかった。それは俺が根暗だとか引きこもりだとか、そういうことではない。
いわば俺が平凡で、奴が非凡なだけなのである。
平凡な俺は必然的に平凡なグループのやつらとつるんでいたし、奴はそれこそ華やかなグループの男女とつるんでいた。そう、男女、だ。ここ重要ね。
所詮イケメンは女の子に人気があって女友達も彼女も選びたい放題なのだろう。俺には知りえない世界なのだろうが。
おっと本題が逸れた。決して俺が僻んでるとかそういうことではない。俺は俺なりに楽しんでやってるし、ああいうイケメンにも悩みとかあるだろう。女の子に付きまとわれて大変ーとか。うわ、贅沢な悩みだな、うらやましい…とかちょっと思ってしまったあたり恥ずかしい。
先生の起こせ、という視線が俺を突き刺してやまないので、俺はゆっくりと彼に触れ、起こすことにした。