短編小説
□隣のかっこいいアイツ
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さっきの数学の授業を終えてからというもの、気になっていることが一つある。
隣の席のイケメンがちらちらとこちらを伺うように見てくることである。
さっきの数学の授業は実は一時間目だったので、今現在やっと四時間目なのだが…
正直、言いたいことがあるなら言ってきてほしい。遠慮がちな視線はさまよっているものの、こちらに意識は向けられている、そんな感じなのだ。
試しに梅田の方に顔を向けてみると、ふい、と逸らされる。くそっ、なんだってんだ。
平凡の分際で俺を起こすなとかそういうことが言いたいんだったら、はっきり言ってくれた方がいっそ清々しい。
ちらちらとこちらに向けられる視線のせいで、一向に授業に集中できないまま、四時間目終了のチャイムが鳴ったのだ。
「はぁ…」
「どうしたの、ため息なんかついて」
「うーん…ちょっと、な」
コンビニで買ってきた牛乳パックにストローを突き刺しながら、俺は憂鬱な気分になっていた。そんな俺に優しく話しかけてくれるのは、親友の清水隼人だ。隼人は梅田とはまた違ったタイプのイケメンで、どちらかといえば可愛い寄りの美少年である。
隼人とは中学の時からずっと同じクラスで、今もその記録は更新中である。隼人は頭がよく、可愛い顔して結構ずぱっと物事を言う、男らしい性格なので、俺は一緒にいてとても楽で、気の置けない友人である。
昔から俺のちょっとした心配事を、当人よりもいち早く気づいて、指摘してくれたりしていた。
「もしかして梅田真(まこと)関連?」
「ぶっ!」
おま、なんでそんなに鋭いんだ。
なぜわかったという顔で隼人を見れば、にっこりとほほ笑んだ。
「俺、竹本柊(しゅう)マニアなんだよ?わかるに決まってる」
一見周りから見ればこの隼人の発言はおかしいのかもしれないが、柊にとってはもはや日常であるために、突っ込みは存在しない。
そっか、と納得すれば、隼人は満足げに綺麗な笑顔で微笑んだ。
「なぜか俺が見られているような気がするんだ」
「うーん、無視しとけばいいんじゃない?」
「え」
ブラックコーヒーを飲みながら隼人は言い放った。ブラックコーヒーは顔に似合わないからやめろとあれほど言ったのに。こいつは中身が男前だからおやつと言えば酒のアテだし、今もなぜかおっさんくさいものしか口にしない。
にしても…あまりにもバッサリと梅田のことを切るものだから、俺は恐る恐る聞いてみた。
「あのさ…もしかしなくても、梅田のこと、」
「きらいだよ」
「さ、左様ですか」
さすがは男前な性格。俺もさばさばしているとは思うが、ここまではっきり線引きをできるまでではない。普段は柔らかい物腰な隼人をここまで冷たい口調にできるなんて。梅田は何かしたのだろうかという疑問が浮かんでくる。
「梅田がなんかしたの…」
「いや、梅田真は直接はしてないけど、間接的に俺が嫌うことをしてるだけ」
「さ、左様ですか…」
そんなことよりさ、他の話しよ?と女子なら可愛さにイチコロであろう笑顔で言われては、なんだかそれ以上突っ込めなかった。
梅田…まじでなんかしたのか?
そう梅田に問いたくなるような、隼人の態度に疑問を持ちつつ、俺はサンドイッチを頬張った。