短編小説

□あとのまつり
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おいおいおい勘弁してくれ。
こういう光景はドラマとかでは見たことがあるけれど、きっと自分には無縁だろうと考えていた。
立派な独身貴族を謳歌している自分だが、こんなシチュエーションは現実じゃあない。きっとそう、そうに違いない。


「んっ…」
「うわあああ!!」



隣で寝返りを打って気持ちよさそうにしている人間の存在を無視しようとしていたが、そいつはあろうことか俺にすり寄ってきた。
思わず俺はびっくりしてベッドから滑り落ちてしまった。

その音に反応したのだろう、俺が存在を無視していた人間はゆっくりとまどろみから目を覚ましたらしい。


「…んぅ…おはよう」
「…オハヨウゴザイマス…」



そう、出来れば夢なら今のベッドから落ちた衝撃で覚めて欲しかった。できれば全部なかったことにしてもらいたかった。

そいつは寝起きの色気を振りまきながら、気だるさを隠さずに目をこすった。
うん、俺の目がおかしくなければ、こいつは男だ。女の人にある俺の大好きなおっぱいが全くなく、真っ平らな筋肉のついた胸しかない。

目が覚めると隣に上半身裸の男がいたシチュエーションなんて誰が予想する?
予想もしたくないし、絶対に起こりえない状況である。
目の前の男は一言で言えばイケメン、には違いなかった。女には困ってないよ、みたいな台詞が嫌味なほど似合うような美形。けれど男には変わりない。


「あれ、誘ってるのかよ、その格好」
「は?…うわあああ!!」


そいつは俺を見つめて、にやにやしながらそう言ってのけた。
言われて気づいたが、俺は何も身にまとっていなかった。つまりは全裸だった。そう、つまりアソコも完全無防備に晒していたのだ。


「そういう積極的なの、別に嫌いじゃねぇけど」
「どういう意味…って、痛…っ!」

俺は急いでそこらに脱ぎ散らかしているパンツを履くと、いそいそと服をかき集めてとりあえず服を着た。ああもう、この服の皺どうするんだよ。スーツ新調したばっかなのに。
というか、この服の乱れようといい、お互い服を着ていないことといい、ベッドに二人して寝て朝を迎えているこの状況…
しかもなんかケツが痛い気が…する。
俺はサーッと顔が青ざめていくのを感じた。

まさか…

いやいやいやいや!!ナイナイ!!!あり得ないないから!

俺は一つの答えにたどり着きそうになるのを必死に阻止した。


「なんだ、つまんね。昨日は可愛かったのに」
「何の話ですか!!」
「何、覚えてないのかよ…」


目の前のイケメンは不機嫌に顔を歪めると、恐ろしいことを口にした。


「昨日セックスしたじゃん、俺とアンタ」


ああ神様、独身貴族を謳歌している俺が何をしたというのですか。

俺は今度こそ夢オチを期待したが、悲痛にも尻の痛みが現実だと思い知らせてくれた。
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