短編
□眼鏡の不思議 炎ツナ
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「あれ?炎真って眼鏡かけてたっけ?」
連休明けにある中間テストに備えるため、俺達は炎真の家で勉強をしていた。
「ああ、うん……なんか最近目悪くなっちゃって……」
「へぇ?なんか雰囲気変わるねー……」
普通は眼鏡をとったらときめくんだろうけど、この場合は違う。
普段身に付けていない眼鏡をかけることで、かっこよく見えてしまうというやつだ。
炎真は元から顔調ってるし、高校入ってからはめちゃくちゃ背が伸びて体格も良くなって……
「何か狡いよなー」
「何が?」
かっこいい上に、成績いいってどういうこと?
高校入っていきなり学年トップ組にいっちゃうなんて……
「狡い」
「えっと……何で?」
僕何かした……?
何も言わないけど、顔に出てる。焦りながら、俺を真っ直ぐ見つめてくる紅い目は、レンズ越しでもしっかり映えていた。
「眼鏡……似合ってるね」
「え、あ、えっと……ありがとう……?」
「授業のときとかしか着けてないの?ずっと着けてればいいのに」
「……1日中かけてると頭痛くなるから」
くるくるシャーペンを回しながら、何でもないように言った。
「眼鏡かけてる炎真ってかっこいいし、モテるよ?」
「興味ないよ。それとも、ツナ君は僕がモテた方が好き?」
意味深に笑う炎真にどきりとしながら、俺は「別に」と言って顔を背けた。
「まぁ、眼鏡邪魔だしね」
「じゃあコンタクトにすればいいのに」
「コンタクトは手入れとかめんどくさいから……」
ふぅんと相槌を打ちながら、シャーペンをくるりと回した。
手元の数学の問題集。意味のわからない公式やら何やらが羅列していて、見ているだけでも嫌になる。
「あー……無理。もう考えたくない……」
「まだ言う程やってないじゃんツナ君……」
「やだ。もう無理。考えらんない」
シャーペンを投げ出して、のびをする俺に溜め息をつく炎真。
「仕方ないなぁ……赤点とっても知らないからね」
「炎真がいるから平気。」
「何それ」
炎真は苦笑しながら、筆記用具や問題集を片付け始める。
ていうか、炎真って眼鏡かけてなくてもモテてるよなぁ……
「………」
テーブルに上がっている自分の勉強道具を端に寄せる。
何気なく携帯を開けば獄寺君から電話が来ていたので、かけ直そうとしたところで、炎真にその手を止められた。
「炎真……?」
「今獄寺君に電話かけようとした?」
「え、何で分かんの?」
「僕にも電話来てたから」
メッセージ付きで、と言いながら黒い表情を浮かべる。
「……………………」
「?……何?ツナ君」
「…………うん」
何となく炎真の目を覗けば、炎真は微笑してどうしたの?と聞いてくる。
「炎真やっぱり眼鏡似合うよ」
「そう?……でも、」
俺の視界一杯に紅が広がった。
―――……クチュ、チュ…
厭らしい水音が俺の耳をくすぐって、身体がだんだん熱くなっていく。
「ん、ふぅ……はっ……」
「……はっ………ツナ君」
やっと口を解放されて、息が荒くなった。
炎真はずり落ちた眼鏡をついっと上に押し上げる。
「な……っ……炎真……!?」
「ツナ君に眼鏡似合うって言われて嬉しいけど、キスするときは邪魔だね」
納得したようにする炎真に俺は思わず声を張り上げる。
「なっ、じゃあ取ればいいじゃん!」
「だって、ツナ君がずっとかけてればって言うから」
「だ、だからって……」
――眼鏡姿でその声と表情は狡いだろ!
鼻血もんのその声と表情に翻弄される。
「ベタな漫画の設定だったら、眼鏡とったら人格変わるのかもしれないけど……僕の場合は……」
炎真が、にやりと笑って顔を近づけてきた。
「僕の場合は、眼鏡かけると人格変わっちゃうみたいだね」
再び、貪るように唇を奪われた。
眼鏡の魔法
(んなことあってたまるかあああぁあぁあぁあああぁあぁっ!!)
(ああもう……ツナ君可愛い)
(マジで人格変わってるしぃいいぃいぃいぃ……!!)
(そう?)
(普段の炎真はそんなこと言わないもんっ)
END