Marchen

□黒狐亭
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『女将さんとおら。』

朝起ぎて、眠てー目こすりながら女将さんが作った料理を食って。
ここからおらの忙しい1日が始まる。
今はもう慣れちまったけど、最初女将さんに拾われた時は大変だった。

「身だしなみを整えるのは接客の基本中の基本よーん。」なんて女将さんは言いやがるけど、おら生まれてこの方身だしなみなんて気を使った事すらなかったから。
ドレス(変てこな柄だけど)なんて着たことなかったし、髪なんて結った事なかった。
何度も練習して、髪を結う練習をしてみたけど女将さんの様にはなかなかならねぇし。
二つ縛りまでは出来る様になっても、毛先が纏まらなくてもさもさしちまう。

「何で出来ねぇだー!?」
「ちょーっと、遅いと思ったら何してんのよぅ?」
開店の準備を終えた女将さんがやって来て呆れ顔。
「おら女将さんと同じ髪さ、しようと思ったけど出来ねぇだ!」
「あんたの髪はクセっ毛だから無理ね!」
「うわぁーん(´;ω;`)」
「まっ、それならいい方法があるわ!」
「んだ?」
そういうと女将さんはおらの髪を片方ずつロープみてぇに結いだした。
「こんなの女将さんと一緒じゃねぇだよ!?」
「なぁーによ、私の若い頃と同じ髪型よ。文句あんの?」
「ねぇだ。」
「泣くとブサイクな顔がもっとブサイクになるわよ。」
「ひでぇだー!」
「あんたは田舎っぺでがさつでブサイクだけど笑顔と元気さだけが取り得なんだから。もっと自信持ちなさい。」
「分かっただ。おら、頑張るだ☆」
「その調子よ。ってほらお客が来るわよ!早く支度なさい。」
「ぶー、人使い荒ぇババアだべ。」

髪を結ながらこんなやりとりを思い出した。
この髪型には思いいれがある。
だからおらは今日も女将さんと一緒のこの髪型で黒狐亭に立つんだ。


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