Marchen

□宵闇の湖の賢女
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『宵闇の湖の賢女』

「ちっ…くそばばぁー」

おらは森にある湖に向かっていた。
そんなに怒る事ねぇべ。
つまみ食いばっかりして何て言われても、仕方ねぇべ、腹減ってんだから。
たらふくおまんま食いてぇんだから。
反省しろっつっても、うめぇから我慢できねぇのに。
どかっと座って、手の近くにあった小石を湖に向かって投げた。
水面に広がる円が広がって、おらの影が揺れぼやける。
そこに影が二つになった事に気づいた。

「んあっ!?」

「あんまりかっかしてると身体に悪いわ?」

「誰だべ?」

「ごめんなさいね、私はテレーゼよ。」
テレーゼという人はおらにカップを差し出した。
そこの葉っぱで作ったお茶らしい、いらいらがおさまるとさ。
そして、どうやらおらの話しを聴いてくれるらしい。

「女将さんはおらにすぐ怒るんだべ。つまみ食いするな、言葉使いや見だしなみに気をつけろ。男の人に騙されない様にねとかうるさいべ。」

「そうねぇ。」

「夜一人で歩くなとか。おらもう大きいだ、ちびじゃねぇだ。」

「私も女将さんに同感ね。」

テレーゼもおらに自分の話しをしてくれた。
息子が一人いること、生まれて来た時は目が見えなかったこと、不思議なことに目が見える様になったこと。
同じ子を持つ親だからこそ女将さんの気持ちが分かるらしい。

「ぺぇちゃんは女の子だから、色々心配なのね。口うるさいかもしれないけど女将さんなりの愛情ね。」

「愛情…?」

おらにいかに親は子供の事を大切に思っているか、いつでも子供の幸せを願うもの。
だから心配ばかりしてしまうものと教えてくれた。
女将さん本当の親じゃねぇのに。
おらは女将さんに大事にされてんのか。

「そーだべか。」

「私も貴方みたいに元気で健康体にメルを産んであげられれば良かったわ。」

「元気ねぇならうめぇおまんま食えばいいだ。店に来てくれだよ!女将さんのうめぇおまんま食えばすぐ元気になるべ♪」

「今度メルを連れてごちそうになりますね。」

「んだんだ♪♪」

テレーゼと別れたおらは黒狐亭へと急ぐ。
女将さんが待ってるから。
もし帰って一番に謝ったら、おらのこと許してくれるべか?
また並んでお店出来るべかな??

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