□君の隣で春を待つ
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 久しぶりに二人だけで来た釣堀は、寒さのせいか人も少ない。相変わらずせっせと手紙を針に付けてるカラ松兄さんは論外としても、ちゃんとえさを付けてる僕も今日は全然釣れない。魚たちはお腹いっぱいなのかねぇ・・・まぁこうやって、時間を垂れ流すのもたまには悪くない。何よりも、カラ松兄さんの隣に居たらなんかそれだけでもう全部どうでもよくなる自分が居て、むかつくけど、イッタイけど、まぁそういうことだから仕方ないよね・・・うん。

「いーい天気だねぇ・・・。」
「そうだな・・・絶好の釣り日和だ。」
「二人とも一匹も釣れてないけどね。」
「フッ・・・今日の魚たちはシャイのようだな・・・?」
「イッタイねぇ〜いっつも兄さんは釣れてないでしょ。」
「フッ・・・。」

 この人はなんでいっつも、どうしようもなくなると釣り竿投げちゃうんだろう・・・?
 大人しく着席したもののやることがなくなったカラ松兄さんは、足を組んで僕の浮きを眺め始めた。あ、また目が痛いパンツ履いてきてる気づかなかった最悪。思わず出たため息は、高く澄んだ空に消えていく。なんとなく見上げた空は雲もほとんど無くて、高くて、透き通る冬の冷たい空気が気持ちいい。今日は僕の特に好きな空だ。

「あ。」
「え?」
「見てみろトッティ!桜だ!」
「え?時期早すぎでしょ?!」
「あぁ、まだ咲いていない。でもつぼみがある。」
「えぇ?どれぇ?」

 カラ松兄さんが指差す僕の向こう側にあった木は少し距離もあってか、冬の枯れ木にしか見えない。うーん・・・?言われてみればちょっと先のほうになんかついてる・・・?てか普通はわかんないでしょ。振り返ったら、すごく嬉しそうな顔でにこにこしてて、なんかちょっと可愛く見えた自分がちょっとキモイよね。

「てか咲いてるならまだしもつぼみとかフライングすぎてわっかんないよ。」
「そうか?」
「そうだよ!でもまぁ咲いたらまたお花見したいよねぇ〜!」
「ん、そうだな。」
「そういう話じゃないの?」
「それも、ある。」
「ふーん?」

 なんか今日はやけに含みのある言い方するなぁ。まぁ理解できない言語で話されるよりはずっといいけど。そっちがその気ならたまにはこっちもちゃんと聴いてあげようと思って、僕も釣竿を置いて、カラ松兄さんの方に体を向けて座る。頬杖をついて見上げると、少しあわてた様に目を泳がせて顔をそらされた。

「ちょっとー?カラ松にいさーん?」
「桜が。」
「んー?なぁに?」
「・・・好きなんだ。」
「うん?」

 あんまイメージないけど。まぁでも綺麗だよね、むしろ嫌いな人あんまりいないでしょ。結局よく分らなくて首をかしげる僕をみて、兄さんは観念した様にサングラスを外して少し笑った。

「お前と同じ色だろう?」
「へ?」
「町が桜色に染まると、どこにいてもお前と一緒にいるみたいで、幸せなんだ。だから、ずっと好きだった。」
「なにそれ・・・!意味わかんないんだけど!?」
「・・・すまん。」
「あやまんなクソ松!!」

 意味分んないくらい顔が熱い。笑ってるカラ松兄さんの、あったかい手のひらが頬を撫でてくれる、そこで初めて自分が泣いていることに気づく。くやしいなぁ・・・好きだなぁって、呼吸が、胸が、苦しくなった。頭の隅っこで、僕ら釣堀で何やってんだろうとか、兄弟なんだけどなぁとか、男なんだけどなぁとかいろいろ浮かんでは来るんだけど。少し息を吸ってあげた顔の先で、たぶん僕と同じくらい真っ赤になって、泣きそうな顔で笑ってる人を見たら、やっぱりなんか全部どうでもよくなって、思わず僕まで笑ってしまった。






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