おはなし
□僕だけの
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本や書類がそこらじゅうに積み上げられた部屋。いつもの、少しだけ作られたスペースに座りこんで、本棚を背もたれにして部下からの書類に目を通す。
最近は、特に忙しい。ウラノスとの戦いに遺跡の調査、ハワード様からの依頼もたまにあるし、遺跡調査の後処理は精神的にも辛い。余計に疲れが溜まってしまう。しかしそんな弱音を吐ける立場でもないし吐きたくないとも思う。僕が一番しっかりしないといけない立場なのだから。
「ジェフティさん」
はっとして顔を上げると、にこりときれいに細めて笑う瞳と目があった。
先程まで書類を見ながら、でも別のことを考えていた僕は急に現実に引き戻された気がして、ついほっと息をついてしまう。それを不思議に思ったらしい目の前の少女は首を傾げた。
そんな可愛らしい彼女に、僕も笑いかける。
「どうかした?」
「いえ、ジェフティさんが帰ってきてからずっと部屋にこもっているから、お茶をと思って」
そう言って僕の前にずい、と紅茶がなみなみと入ったティーカップを差し出す。ありがとう、と言って受け取ればまたにっこりと笑ってくれた。
僕は間近に見たその笑顔に思わず照れてしまって、それを隠すようにカップに口をつけた、が、思ったより熱かった紅茶にびっくりする。
「わっ、ごめんなさい!熱かったですかっっ」
おろおろとする彼女に今の僕を見てほしくなくて、カップを片手にもう片方の手で顔を覆いながら俯いた。
なんというかこれは、そう、ださすぎる。僕としたことが…
「ごめん、大丈夫だから…」
「ほ、ほんとですか?舌とか火傷してませんか?」
「…平気」
未だ俯いている僕の背中をさすりながら慌てる彼女はどこかずれているけど、僕はたまらなく愛しいと、思う。
ようやく顔の熱も治まったところで、顔を上げる。すると彼女は青い顔でこちらを覗き込んでいて、僕は少し笑ってしまった。
「もう、ジェフティさん。びっくりさせないでくださいよ」
「驚いたのはこっちだけどね…」
「う、すいません…あの、ケーキも食べます?カイトが作ってくれて」
言いながら差し出してくれたのは、きれいなオレンジ色をした小さなケーキ。
にこにことどこか期待しながらこちらを見てくる彼女に促されてすっとフォークを刺して口に運ぶと、砂糖や生クリームの甘さではない甘さが口の中に広がった。
「これ…ニンジン?」
「はい!おいしいですよね」
「うん…君も、ここで食べれば良かったのに」
ケーキを食べながら、拗ねたように言ってみる。案の定、彼女は少し困ったような表情を浮かべた。
僕の心は、歪んでいるのかもしれない。彼女のこの顔が見たくて、いつも少し意地が悪い言葉を口にしてしまうのだから。
「そうですよね、一緒に食べた方がもっと、おいしいですよね」
今度からは一緒に食べましょう、と言って微笑む。
年上だからなのかもしれないが、この人の心の広さには感心するばかりだ。年下の僕に対して敬語は使うし、たまに言う僕のわがままや無茶な任務もこなすし、僕に何かと尽くしてくれる。彼女と僕は仲間だけれど、所詮は他人なのに。そんな優しい彼女と二人きりで話す機会が一番多いのは僕だと思う。その事実は、僕を優越感に浸らせた。
「…ジェフティさん?」
「なに?」
「あの…これはなんでしょう」
きょとんと、僕の持つフォークの先を見つめた。
僕が彼女に向けているフォークの先には、ニンジンケーキのひとかけら。
「一緒に食べてくれるんだろ?」
「…、ジェフティさ、ん」
「はい」
爽やかに笑ってみせる。
すると彼女の顔は、みるみる内に赤く、変化していった。
しばらく見つめた後、意を決したように口を開いてケーキを食べようとした彼女だが、
瞬間、僕はさっと手を引いて代わりに彼女の口には僕からのキスをかましてやった。
ああ、きっと驚いた顔をしているんだろうななんて思いながら、僕はまた優越感を味わう。忙しい中でも、彼女さえいてくれれば頑張れる。守るべき仲間で、大切な人。
これからも僕の為に、たくさん働いてね。なんて耳元で囁けば君は真っ赤な顔で頷くんだ。だいすきだよ。
*
DSS熱に浮かれて書いたジェフティ夢でした^^
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