おはなし

□ねぼすけ、天然
1ページ/1ページ




コンコン、と扉を叩いて中からの返事を待つ。
でも一向に返事がないので、私は一応 入るよ と声をかけてから扉を開けた。


「ライカ…いないの?」


私からの問いに、ベッドに丸まるシーがにゃあ、と答えた。いつもならベッドの隣の椅子に腰掛けてパソコンをいじっているライカはいなくて、代わりに私はシーへ近づいて可愛く鳴くシーを抱き上げる。


「会議中なのかなあ?」

ベッドに座って、シーに語りかけてみる。なんだか虚しくなってしまったけれど、これはいつものこと。誰かに会いたい時、ライカに会いたい時、いなければシーと(一方的に)お話する。そうして寂しさを紛らわすのは、私の癖。




「──あれ?ライカいないのか?」

「カイト?カイトも、ライカを探してるの?」


扉から顔を覗かせるのは、カイト。見て、扉を開けっ放しにしてたのだと気付いて少し恥ずかしくなる。
シーに話しけてたの、聞かれたかな?

でもカイトは平然とした表情で中に入ってきたから、聞かれてなかったのだと分かる。ベッドに座る私の隣にぼすん、と座って、私の腕の中にいるシーを軽く撫でた。(他人のベッドに断りもなく座る私とカイトは、ちょっと失礼な人間なのかも)



「あいつ、俺に話があるとか言っといて、何処にもいないんだよ。ずっと探してるのに」

そう言って少し拗ねたように口を尖らすカイトは、私から見てもかわいいと感じる。前に本人に言ったら、怒るかと思えば照れたりして。カイトは根っからの弟気質なんだと、思う。(タツキさんが羨ましい)


カイトは、あーあ、と大きくため息をついてベッドに寝転がる。天井を見ながら、私になんでライカの部屋にいるのかと聞いてきた。


「うーん、ライカと話がしたいなと思って。シーしかいなかったけど」

「話?じゃあ、俺としようよ」


寝転がったまま私の方を見てにこ、と笑った。俺も暇だし、と付け加えて。
カイトのこの優しさが、私は好き。でも多分この船に乗る人達はみんなカイトと同じ優しさを持ってる。だからみんな、みんな大好きなのだけど、カイトは私と年も近いこともあって一番話しやすくて。どうしてもカイトの優しさに甘えてしまう。


「ありがとう、カイト」

私が笑いかければ、カイトもふわりと笑ってくれる。その笑顔になぜかどきりとしてしまって、抱えていたシーが私の腕からするりとすり抜けカイトにぴたりと寄り添った。


「あはは、シーはかわいいな」

ごろごろ言うシーに、カイトは赤ちゃんをあやすかのように頭や首元を撫で回す。無邪気なその姿に、私は思わず

「カイトもかわいい」

なんて、言ったらカイトは驚いたようにこっちを見る。そして1拍おいて頬が赤く染まった、かと思えばシーを撫でていた手をこちらに伸ばしてきて。



「俺よりシーより、何よりもあんたが一番かわいいよ」


私の頬に触れて、カイトは言った。
読もうと思っても読み取れない表情。頬の赤さなんて一瞬でなくなっていて、今のカイトは、そうだ、言うなればドラグナーとしての"カイト"だ。
カイトが触れている部分がどうしようもなく熱くて、逃れたくてもカイトの少し細められた紅い瞳に見つめられて動けなくて。(紅い瞳、やっぱり今ドラグナーモードだ!)
私の心臓の音がうるさい。どきん、どきん、とすごく速い音。カイトはそんな私とは対照的に落ち着いていて、すっと目を閉じて、カイトの手が私から離れて落ちて、


「…え、カイト?」


規則正しい呼吸が聞こえる。どう見ても、寝ている。
毎日の魔物との戦いで、疲れてるんだろうなと分かっていても先程のどきどきした気持ちが無駄になったような感じがして少し腹立たしい。
でも、カイトが。
カイトが、私に向かって"かわいい"だなんて言葉を口にしてくれた。そのことがとても嬉しくて、思い出してついにやけてしまう。恥ずかしい言葉だけれど、カイトに言われたその言葉は私にとって特別な意味を持ったみたいで。

「ありがとう、カイト。すき」


カイトの頭を撫でて、シーを挟んだ隣に寝転がる。
ライカが帰ってきて起こしてくれるまで、寝ていよう。なんて、少し迷惑かもしれないけれど。シーを抱いて気持ち良さそうに眠るカイトを起こすのも可哀想だし。
たまにはライカを困らせるのも、いいよね。













「…なんでこんなことに」

ライカが会議を終えて自室に戻ると、ベッドの上に大きな塊が転がっているのに気付いた。
近づいて見れば、そこには幸せそうに眠る子どもが2人。2人の間にシーがいるものの、その2人は向かい合ってぴたりと寄り添って眠っていて、ライカは青ざめた。

自分が想いを寄せている愛しい少女と、どこか放っておけない弟のような存在の少年カイト。
どちらも大切な存在とはいえ、カイトのこの羨ましいシチュエーションは許せない、とライカは心がむかむかしてきた。

(とりあえず)

カイトの背中を掴み軽々と持ち上げると、そのまま扉の方へ行き外へと投げた。(それはもう、痛々しく落ちた)
途中でカイトは目覚めたようだが、寝起きというのは知覚が鈍る。何が起きたか分からない様子で、ライカに投げられたというのには気付かなかった。扉が閉まりライカの姿が見えなくなれば、俺何してたっけ?と言いながら床に俯せになったままでしばらく動かなかった。



(まったく、あいつは油断ならん)


カイトを外に放り出せばすっきりしたようにライカはため息をついた。
ベッドで眠る少女の方へ行き、隣に腰掛ける。

「おまえは、無防備だ…」

さらりと少女の髪をすくって流せば、ライカの胸は高鳴った。美しい髪だと、心底思う。愛しくてたまらない、眼下の少女に、

そっと口づけを落として。
ライカはそのまま、寝転び眠りについた。







*

ライカとカイトと、三人で幸せになったっていいじゃない!という、妄想の産物^^
カイトは寝ぼけてドラグナーモードになると信じてます。

もどる



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ