おはなし

□店員さんと僕
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「いらっしゃいませー」


今日も、愛しいあの声。
高すぎず、低すぎず、心地よく俺の耳へと届く声。
頭の中に響いてからそれは、俺の心を暖かくする。
俺だけのものにしたい、なんて酷く醜い欲を瞳に秘めて、俺は今日も君を見つめる。




「――780円になります、こちら暖めてよろしいですか?」

「あぁ」

なんて無愛想なんだろうか。
愛しい君、なのにこんな答え方しか出来ない自分に腹が立った。
それに本当は暖めて貰ったとしても、家が遠いために帰る頃には冷めてしまう。
でも、電子レンジに入れてから50秒は君を見ていられるから。
50秒でも、惜しい程に俺は君に恋している。


「お待たせしました。ありがとうございます」

にこり、と笑って袋を渡してくれる君。この笑顔を見ないと一日が終わった気がしないのだから、俺は相当重傷だ。(彼女がバイトに入っていない時は、絶望的だ)



「…並盛中ですよね」



俺は思いがけない出来事に、渡された袋を掴もうとした手を中途半端に開いたまま止まってしまった。
これは、俺に、話し掛けてるのか、 ?
まわりを見渡してみても、俺以外に客はいなかった。(いつもこの人の少ない時間を狙ってきている)


「ズボンの色、並盛と同じなんだけどな。違う?」

「あ、や、そう。並盛」

どもりながらもなんとか声を絞りだした。
なんだよ、急に。いつもは話し掛けねーのに。

あ、今日は店長のオッサンがいねーからか…
今日初めて、オッサンに感謝。


「学校から遠いのに、いつも来てくれますよね。また来てくださいね」

またにこり、と笑って。
俺は熱くなる顔を見られないようにと素早く店を出た。



熱い顔は少し冷たい空気でも冷えなくて、俺は駆け出してしまった。
あつい、あつい、あつい、
頬が、耳が、胸が、
君のせいでこんなにもあつい。もう、燃えてしまってもいいと思った。


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