おはなし

□雨
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ざあざあと降り続く雨に、私は昇降口で立ち尽くした。今朝のニュース番組で見た天気予報では快晴だと言っていたのにどういうことだろう。かれこれ30分は降っている、夕立にしては長く続く雨に私はため息をついた。
待っていれば止むかもしれない、と思ってずっと待っているのだけど、もうすぐ下校時刻を過ぎそう。これはおとなしく職員室まで傘を借りに行った方が良さそう(返すのが面倒だから今まで行かなかったのだけど)、と思ったその時、


「傘、忘れたのですか?」


隣でにこり、微笑む男の子。
この前私のクラスに転入してきた六道くんだ。



「う、うん。今から、借りに行くとこだけど」

六道くんとは同じクラスだけど、今までちゃんと話をしたことがない。朝、教室に入ってきたときに目が合えばおはよう。というくらい。とても不思議な雰囲気を持っているから、悪い意味じゃないけれど近寄りがたい。それになんといってもきれいな顔をしていて、かっこいい。クラスの女の子に人気で、私なんかが話し掛けられる人じゃないんだよね…



「その必要はないですよ」

「え?」

「どうぞ」


六道くんは自分の持つ傘を私へ見せた。どうぞ、と言うことはこれを私に貸してくれるつもりなのだろう。
でもこれを借りてしまったら六道くんが濡れて帰ることになってしまう、とてもありがたいことだけれど、六道くんの傘をすんなり借りるほど私は図々しい人間じゃないし、ろくに話したことのない私に傘を貸す義理なんてないはずだもの。これは、断らなきゃ。
相変わらずきれいに微笑む六道くんに向かってふるふると首を振って、悪いからいいよ、ありがとう。と私は言った。すると六道くんがきょとんとした顔をするものだから、私は少し焦ってしまった。私なにも変なこと言ってないよね?



「なに言ってるんですか、さあ帰りましょう。送りますから」


言って、六道くんは傘を開いた。
これは、もしかして、?
六道くんの行動に目をぱちくりさせていると、六道くんは私の腕を掴むと自分のさす傘の中にひっぱり入れた。


「えっ、え、ろっ六道くん?!」

「どうかしましたか?」


私の腕を未だ離さない六道くんはなんともないという顔をして、にこりと笑った。
私はというと予想外の行動にただ恥ずかしくなるだけで、口をぱくぱくさせるのが精一杯。顔が、あつい。六道くんとあ、相合傘、してるなんて、そんなの恐れ多すぎる。クラスの子に見つかったらどうしよう、なんて考えを巡らせていると、六道くんは私の腕を離して行きましょう、と言って歩き出すから私もおとなしくついていくしかなかった。

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