おはなし

□約束
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真っ暗な城下町を、ひたすらに駆ける。遠くで誰か知らない男が叫ぶ、その度にわたしは心臓の音が速くなるのを感じた。
息を切らして走り続けていると、目の端が一瞬光り、そちらに目を向ければ闇に浮かぶ銀色と、白い煙。

「隼人さん」

小声で言い、わたしはゆらゆら風で揺れる銀色の元へと駆け寄った。



「ここまで来れば大丈夫だろ」

細い、路地裏。木箱が積んであるところに隼人さんはしゃがんでいた。
彼の隣に、そっと座る。木箱からはほんのりとフルーツの香り。彼からは煙草の。わたしは心地良いその香りに、先程まで速かった心臓の音が静まっていくのがわかった。


「うまいこと逃げただろうな?」

「はい、大丈夫です。任務完了ですよ」

「…怪我は」

「相手にはさせてしまいましたが、わたしは平気です」


暗闇のせいでわからないと思うが、わたしはにこりと笑って答えた。
隼人さんも、微笑んでくれた気がする。


「ボス、誉めてくれるでしょうか」

「沢田さんが誉めて下さらないことなんてあったか?」

「ふふ、そうですね」


真っ黒なわたしたちは、2人で静かに笑う。ほかにはなんの音も聞こえなくて、2人だけの世界。そんな感じがした。
しかしその世界はつかの間のことで、遠くでなにか叫ぶ声によって現実へと戻される。


「山本さんですね」

「あのバカ、あんな大声で…」

隼人さんは頭を抱えた。

こちらにどんどん近づいてくる声と足音に、わたしは立ち上がろうとしたが、それは隼人さんの手に引かれ遮られる。

「隼人さん、山本さんが」

「いいから、まだ…こっち来い」


今でも充分近くにいるわたしたち、でもわたしは隼人さんの言うとおりもう少し距離をつめた。
顔を上げると、隼人さんの端正なお顔がすぐ目の前にあって、そのままわたしたちは唇を合わせた。



これはわたしたちの約束。
任務が終われば、自分たちの無事を喜びキスを交わす。今まで一度も欠かしたことのない、堅い約束。
いつからなのかはもう忘れてしまったけれど、どちらが言うでもなく、この約束はいつまでも破られない。


山本さんの声と足音が近付き通り過ぎるまで、わたしたちは静かにキスをした。





*

5月か6月の日記にて、書いたものです^^
唐突に大人設定で書いてみたい!と思ったのでした。

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