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□束縛の糸を解いて
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あなたは僕が思う以上に力があるから、
そう紡ぐ言葉に、耳を塞ぎたくなった。

こんなに純粋に冷たく暗い悲しみを、一人で抱えている
いや、自分を悲しみで縛っている。
それに気付かないまま、もがいている。

自分で選択出来ない者の、なれの果てなのか。

「嫌です」
「…………あなたとは…意見が合わないね…」

嘆息する彼に、焦燥が伺える。
ワタシは彼の顔前で言葉を吐いた。

「わかってますか」
「……なにが……?」

現実を見たくないとでも言うかのように、彼は視線を逸らしながら問う。

逃げたいのだろう?
立ち向かう術を、あの時代に手に入れることが叶わなかったアナタは。

前を向くのはいつだって
ギルバートのため だったアナタには。

「ワタシに酷いことを言ってるのが」
「……約束を破れって…言ってること?」
「違う」

そんなものはアナタに比べれば取るに足らない。
ぐっ、と力任せに彼の肩を握れば、痛いのだろう顔をしかめた。

過去の安寧は、さぞ彼にとって幸せだったのだろう。
否定されてきた子どもが、必要とされ認められることを喜びとするのは至極当然だ。

だから縋る、
……過ぎ去ったモノに。

現在を棄ててまで。

「ワタシに…っ、
ワタシにあなたを失えと……?!」

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