名前なんて決められないッ!

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昼休みなのに、ほとんど人気[ひとけ]の無いひろいひろい図書室



俺の小学校は他の学校と比べて、無駄にデカい造りをしていた



そんな図書室の入り口から見て左の階段を登って4つ目の本棚の奥、



運動場を一望できる位置にある机の窓際の5番目の席



俺が中学年に上がったぐらいの頃は、そこにほぼ毎日通いつめていた



そして、今日も今日とてそこに向かっていた



ひょっこりと本棚から顔を出し、今日もそこに座る目的の人物を見つけた俺は胸を弾ませながら口を開く



「とーもかさん、あっそびっましょ!」



外を羨ましそうに眺めていた珠香さんはチラリと俺を見て、何事もなかったかのように視線を手元の本に戻した



俺は何時ものようにそのまま珠香さんの側にいく



パラリ、パラリ…



薄い、窓越しから聞こえるいくつもの混じった甲高い喜声の中、俺たちは喋らない



パラリ、パラリ…



ただただ珠香さんは本を読み、俺は珠香さんを眺めるだけ



パラリ、パラリ…



……





パラパラパラ…す、パタン



「…っいい加減にしてください。なんでほっといてって言っているのにほっといてくれないんですか」



いまだ、少し距離の感じる敬語は、俺の耳には慣れていなかった



「だって、珠香さんといたいんだもん」



いつだったけ、珠香さんが敬語を使いはじめたのは、



「わたしはイヤなんですっ。それにっ遊びたいなら…外にいけば、いいじゃないですか」



いつからだっけ、俺を突き放そうとしだしたのは、



「だって、珠香さんと遊びたいから行かない」



いつからだっけ、目を合わせて喋ってくれなくなったのは、



「…わたし、とじゃなくても……いいじゃないですか」



いつからだっけ、



「だって、珠香さんが…」



たまに合う、



珠香さんの視線が










「淋しがってるから」



乞うようになったのは…





















「ハッ?!」



俺はガバッと思いきり体を起こした。



まだ空は暗く、太陽が上るにはまったく早すぎる。



全然思考が回っていない頭で俺は辺りを見回した。



…あんれぇ?此処どこだっけ?



なんで俺、通路らしきとこで寝てんの?



え〜っと…たしか、ライさん達に家追い出されーの、ハンター試験受けりーの、えっと、2次試験受かりーので…



「…あぁ、飛行船じゃねぇかよ。うぅ〜、思い出したらなんっか頭がスッキリしたな。…てか、なんだあの夢、










めっちゃ美化されてんだけどッ!!!

いや、自分の夢なんだけどさ!!!うっわ、思い出したら恥ずかしッッ!!!今なら恥ずか死ねる気がするんだけどッ!!!!いや、あの夢殆ど事実なんだけどさッ!!!!記憶上のままならまだしも自分で美化してるって、美化してるって!!!うゎぁぁああああ!!!!(恥)」



俺は自分で美化していた夢を思い出しながら悶え転げていた。



「いや、小学ん時の図書室はホントだし、珠香さんが毎日そこに来てて俺も行ってた事もほっといてって言われた事も淋しそうにしてた事もその他諸々ホントだけどさッ!!O•O•GE•SAになってたぜコンチクショウ☆!!!






…………あ、今のでちょっとだけ、ほんのちょぉーっとだけテンション落ちたわ…うん、やってみるべき事はふざける事だな。」



俺は一つ溜め息を漏らして、元いた場所に座り直した。



そして、手で目を覆う様に隠した。



「……いや、ね、珠香さんの夢見れた事は嬉しかったけどさ、なんで美化、なんで美化されてんだよ。しかも、シリアス調に。俺はシリアスよりシリアルが欲しいよ。いや、そんな事言ってる場合じゃネェんだけど。とりあえず、俺の小学時代が暗いって誤解されたくねぇから言うんだけど、

まず、あんな感じがあった日で訂正すると、あんな珠香さんは外ガン見じゃなくてチラ見程度だったし、

俺の言葉無視しても後で不器用ながらあとでねって言ってくれたし、

あんなあからさまに俺を突っぱねてネェし、

目はちょくちょく合ってたけど、そんなに乞うような感じはなかったし…てか、今傍[はた]からみたら俺ってば独り言ヤバくね?!」



俺は誰に弁解するわけはなく言っていたら、ふと客観的に俺を振り返って少しだけ焦った。



「…はぁ、別に、今は珠香さんがああなった原因は解決したし、珠香さんの夢見れて嬉しかったからイイけどよ…マジ美化って……ねぇよな。あぁ!もう寝よ!!二度寝しよ!!時間もまだ有り余ってるし、違う珠香さんの夢見れたら儲けもん!!おやすみ!!」



俺は勢いよく横にうずくまって、珠香さんに思いを馳[は]せながら目を瞑った。



この後、別の珠香さんの夢をみて魘され、朝寝不足になるのはまた別の話…





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