名前なんて決められないッ!
□はーち
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カツン、カツン、カツン…
黙々と夜目も効かないほど暗い(すぎる)通路を俺は進んでいた。
何分、否、何時間経ったのか分からない。
右も左も分からない、ましてや上下感覚さえも失ってしまいそうな中、唯一手をついている壁だけが頼りだった。
「……。」
俺は黙々と歩く。
「…ちょ、マジ暗すぎるからぁぁぁああああああああ!!」
のが限界だった。
俺は思いっきり自分の後ろに向かって叫んだ。
俺が叫んだせいで着けているお面がビリビリと震動してくすぐったい。
しかし、俺はそれも気にせずにもう一つ更に大きく叫ぶ。
「ぼっちさびしぃぃぃいいいいいいいいいい!!」
悲痛の叫びだった。
「いや〜何でかな、いつにも増して孤独感に激しく駆られるんだけどッ!
視界が真っ暗なせいかな?!真っ暗なせいかな?!!
てか、何でこんなに真っ暗にしてんだよ、意味分かんねぇ!なんか意味あんのだろうけどこれで無意味とか言われたら管理人か試験官ブン殴る!
マジで何で真っ暗なんだよ!!灯りを、電気をつけろよ!!ホントマジでさ!
いや、文句をグダグダ言っても状況変わんねぇから足は止めねぇけど、やっぱ1人淋しい!!」
俺がそう言い切るかいなか、
カチッ
俺は何かスイッチらしきモノを踏んだ。
「え、…何今のカチッt パカッ Σてぇぇぇぇええええええ?!!」
急に足場がなくなった俺は、重力に逆らうことなく光の溢れた空間へと落下していった。
「Σひぎゃぁぁあああ!!目がぁ目がぁあ!!明暗が急すぎて目がイテェエエ!!」
〜〜〜〜
〜〜
バサバサバサ
「あ゛ー…まだ目ぇシパシパするぅー。まじ暗いトコから明るいトコに行く時ワンクッション欲しかったぁー。てか、風で眼球が乾いて全然治んねぇー。」
現在進行形で落ちている俺は案外落ち着いていた。
俺の耳にはコートが風に煽られる音と耳元で金具同士がこすれ合う音だけが聞こえていた。
…いや、ちゃんと自分が何喋ってるかは分かるからな。ただ声が聞こえねぇだけだから。
バサバサバサ
てかわー、長時間落下って浮遊感がするっていうイメージあったけど、ぜんッぜんそんな感じしねぇな。
ほら、イメージを例えるとしたら不思議の国のアリスがウサギの穴に落ちてる時みてぇな。
バサバサバサ
でもどちらかというと、今はめっちゃくちゃ風を全身で受けながら重力がかかる通りに落下してるって感じ…。
バサバサバサ
てか…
「…バサバサってコートが風に煽られる音うるせぇな、おい!どんだけスピードあんだよ!周りが音速ぐらいの速さで飛んでってるんだけど!
Σてか、俺が重たいのか?重たくてこんなにスピード感溢れてんのか?
こんな調子だったらすぐ下に着くと思ってたんだけど、まだ見えもしねぇってどんだけ深いんだよこの穴!」
って、あ……
俺はふと重大なコトに気が付いた。
「このままだと俺ってペッシャンコじゃね?(汗)」
…落ち着けよ俺。
落ち着いて今どうするべきか考えるんだ俺!
ペッシャンコになるコトを頭から追い出して考えるんだ!
落ち着け落ち着け落ち着け餅つけあ、違う落ち着け!
冷静に考えようとするが、落下速度は待ってくれるはずもなく、俺はだんだんと焦ってきた。
「ちょ、どうしよう!落ち着けって言い聞かせても落ち着いていられねーよどうしよう!このままヒューベシャァアってペッシャンコなるのイヤなんだけど?!ホント!それだけは回避したいんだけど!!いや回避したいのはそれだけじゃないけどさ!!え、ちょ、マジえ?!ちょ、ちょ、マジどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!あーもうなんかどうしよう繰り返しすぎてゲシュタルト崩壊してきた!!うわ、ちょ、うわぁ!…Σはっ、そうだ!袖ん中に何か入ってないか?!」
俺は混乱のあまりに手を突っ込む袖を間違い、慌てて入れ直した。
俺は某青狸が焦った時の様に手に触れていったモノを片っ端から取り出していった。
何個目に出たのか分からないが、不意に布を巻きつけた今まで出したなかでは大きく平[たいら]気味のモノを取り出した。
「これってたしか……えっと、あれだあれ!あの、あれ!あー、刃物!そう、刃物だ刃物!俺の武器って言われたあの変な形の!」
焦っていたせいか、なかなか思い出せなかった中身を思い出せ、妙に達成感が俺を満たす。
「Σッて、達成感に浸ってる場合じゃねェじゃん!!てか、もう下が見えてきたし!うわ、どうしようぇえ!!」
…ゴクリ
俺は下に僅[わず]かに見えてきた床と手持ちを見比べて、覚悟を決める様に唾を飲み込んだ。
「…ッ!使いたくなかったが、ぇえい!!一か八かだこのヤロォォオオ!!!」
俺は勢いよく覆っていた布を剥ぎ取り、露[あら]わになった刃を近くの壁に突き立てた。
ギャギャギャギャ…ッ!!
耳障りな金属音が響き、無数の火花を深く刺さった鉄と壁の間に起こしながら引き裂いていく。
…しかし、スピードは落ちない。
「Σちょ、何この刃物!!切れ味良すぎて全然スピード落ちねぇんだけど!!ちょ、止まれよ!!止まれよぉおおお!!それかせめて少しはスピード緩くなれよバカァアア!!(涙)ペッシャンコなりたくねぇぇええ!!(涙)」
俺は必死になって足も壁に押さえつけた。
ギャギャギャギャ…ッ!!
床には猛スピードで、もうすぐそこにまで迫っている。
「うわッ!!ちょ、速いって!!床見えてから近づくの速いって!!うわ、ちょ、うわぁあああ!!」
ガキィイインッッ!!
ズサァアアアア…ゴロゴロゴロ…
「………いってぇ(涙)」
床にぶつかる寸前に俺は壁を蹴り上げて転がった。
一応、受け身はとっていたがスピードがだいぶあって、服で隠れているが擦り傷が所々あるのだろう、全身がヒリヒリした。
「…うっわぁあ、俺ってあんなたっけぇ所から落ちてきたんだ…。ぜんっぜん上が見えねぇぇ。」
俺は大の字で上を仰いで脱力した。
しばらく眺めているとだんだん、目蓋がおもくなってきた。
「…ちょっとだけなら、いいだろ…。」
そして、深いまどろみにおちていった。
「……ゔ〜ん…ば、ばなながぁ…」
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