*その他*

□探していたもの
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――…

ゆっくりと目を開く。

すぐに飛び込んでくるのは、朱、一色のみ。
それだけで気分を害すこと、この上ない。

気づけば、地に座り込んでいた。
今更身体に力が入らないことに驚く。

「ははっ…腰でも抜かしちまったかぁ?」


無我夢中で敵を倒して…。
そこからの記憶は途切れていた。

一体、どのくらい時間が経ったのか…それすら分からない。

「はぁ…」

思わずため息がこぼれる。


「…天下のゼロス様が、聞いて呆れるぜ」

自嘲めいた笑みを浮かべると、視線を闇夜へ向ける。
星々は静かに瞬いていた。

こんなとこで何やってんだよ…何て自分に突っ込む気力さえない。

そして月の高さから見て、日付を跨いでることを悟る。

ふと…思考を横切ったのは、ロイド。
その表情は浮かない。
心配をかけているだろうか。

思わず自分に苦笑する。

…そんな風に思えるようになったのは、つい最近だ。

クルシスやレネゲードたちと繋がっていたときは微塵も考えたことなかった。

早くあいつの顔が見たい、だなんて。

そう思うのだが、恐らく、戦闘中にロイド達とはぐれてしまったのだろう。

俺様としたことが、此処が一体何処なのか見当がつかない。

もうすぐ訪れるだろう夜明けを待つのが賢明だと思われた。
それに、今この深い闇の中で、下手に動いてさ迷うのはごめんだ。

血塗りの硬く赤いベッドでなんか寝れる気がしなかったが、仕方なく冷たい地面に身体を横たえると、また甦るのは思い出したくもない過去。

『お前なんて…』

「………!」

脳内に木霊する声。

いったい何なんだよ。

『産まなければ…』

「嫌だっ……やめろーーー!!!」


「ゼロス!!」

…脳裏に焼きついた彼女の口元が最後の言葉を告げる刹那、何かに包まれる感覚。

それは、今まで自分を取り巻いていた冷気を一瞬で掻き消し、代わりに、どこか懐かしい温かさをもたらす。

「しっかりしろ!ゼロス!!」

あぁ……そうだ。
この温もりを…俺様は知っている。

もちろん母上ではない。
彼女の温もりを感じることは…一度も叶わなかったから。

俺様にほんとの温もりをくれたのは、こいつだけだ。

「ロイド…くん…?」

「………!」

震えてしまった声で、躊躇いがちに…どこかすがる思いで彼の名を呼ぶ。

「ゼロス!…良かった」

ロイドもまた、震えていた。

ゆっくりと固く閉じられていた目を開く。

見えたのは、赤。
俺様の大嫌いな色…。
だけど、不思議と彼の、ロイドの赤だけは…嫌いじゃない。

後ろを向こうとするが、ロイドが肩を震わせているのに気づいてやめた。
泣いている。
確かに、彼は泣いていた。

…なんで俺様なんかのために、涙が流せるんだよ。

一瞬たじろいだけど、それがバレないよう慣れた笑みを浮かべるのは容易だった。

「でっひゃっひゃ、なーに泣いてんのよ、ロイドくん」

でも、生憎それは効果がなかったようで。

「ほんとに…」

いつもより真剣な声色に今度こそ焦る。
普段のおしゃべりもこういうときに限って奮わない。


「心配したんだからな」

今度こそ後ろを向くと、向けられた真剣な眼差しに、目を逸らすことを許されなかった。

こんなどうしようもない奴、ほっとけばいいのに、ロイドくんてばほんとにお人好しだと思う。

「…あぁ……わりぃ」

ロイドが涙を拭うと、まだ言い足りないらしく再び口を開く。

「ゼロスは…いつもふざけてて、うるさくて、女好きで…」

そんなのは、上っ面だけ。

「ちょっ…ロイドくん言い過ぎ」

長年偽ってきた自分の本当の姿は、もう探すことすら諦めていた。

―けど、ロイドに出会って…何処かで期待していたのかもしれない


「でも…ほんとは弱くて「ちげぇよ…。別に、ロイドくんに心配されるほど俺様弱くなんかないっての」


―俺様の本当の姿を…


「じゃあ、何で…」


―ロイドは見つけてくれるのだろうか、って…



「泣いてるんだよ」

「はっ…俺様泣いてなんか…」

目元に手を這わせるが、涙で濡れてはいない。

なぜロイドはそんなことを言うのかと首をかしげてみるが、ロイドが嘘をついているとは思えない。

どういうことかと考えていると、それを察したかのようにロイドは言った。


「…俺には分かる。ゼロスの心が泣いてるのが」

なっ…


一瞬の沈黙。
それを破ったのは俺様だった。

「こ、心〜?そんなもん、分かるわけねぇでしょーが。いくらロイドくんでも、他人の心が見えるわけねーしな」

努めていつもの軽薄さを装ったが、心は揺れていた。

自分ですら見えないものが、ロイドには見えるっていうのかよ。

「見えなくても…感じることはできるぜ」

ロイドの鷲色の瞳は、やはり真っ直ぐ前を見ていて…。
そんな瞳で見られるのは、少し苦手だ。見透かされそうで。

「はっ、そんなの無理に決まって「ゼロスは大切な存在だから…」

「……!?」

一度はその瞳から逃げるが、ロイドにはすぐに捕まってしまう。

「だから…感じれるんだと思う」

「へっ…」

「……」

それっきりロイドはなにも言わない。
そんな口説き文句、言われたことねぇよ。

「この…天然たらしめ…」

「何か言ったか?ゼロス」

「いんや、ロイドくんには敵わねぇって言ったのよ」

「…そうか?」
意味を分かっているかは疑問だが、ロイドはニカッといつもの笑みを見せた。

つられて俺様もいつもの笑みではなく、ゆるりと笑んだ。

それを見たロイドは嬉しそうに俺様を抱き締める腕に力を込める。

何だかこいつなら何でも受け止めてくれるような気がして、ぽすっ、とロイドの胸に頭を預けた。
「ゼロス…?」

目頭が熱くなる。
「ロイドくんってば…ほんとに、ばっかじゃ、ねぇの…」

冷たいものが、つぅと一筋頬を伝った。
もう、枯れたと思ってたのに。

だんだん肩が震えてきて、嗚咽がまじってくる。
くそっ、ロイドにはばれてるだろーな。
かっこわりー、俺様。

「あぁ、馬鹿かもな。でも…」

そんな俺様も、こいつになら…見せてもいいのだろうか。

「今は、それで良かったって思ってる」

俺様の本当の姿―…
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