◎闇と風◎
□LOVE Not LOVE
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―…
まるで時間が止まったかのように暫く沈黙が続く。
急に重々しくなった空気のなか、先に口火を切ったのはシーナだった。
「おい、ティル。お前はルックのことどう思ってんだよ」
どこから飛び出たのか、低く圧迫感のある言葉にティルは笑みすら消す。
そしてそのまま何も言わないティルに苛立ったのか、シーナがティルに近づき、その胸ぐらを掴んだ。
「お前がそんなんだから…」
シュッ!!
まるで言葉を遮るように伸びてきたティルの拳がシーナの右頬を激打する。
目覚ましい勢いで発っせられたそれを避けることもできずに、シーナの身体が地へと堕ちていく。
それがルックにはスローモーションのように見えた。
「ちょっと、ティル!?」
「…っ……いってぇ。いきなり何すんだよティル!」
シーナが睨み上げた先には、それを見下すかのように静かに佇むティルがいる。
「…言いたいことはそれだけ?」
「は?」
ティルの問いかけに一瞬呆気にとられるも、シーナは固唾を呑んだ。
ティルの出方を伺ってるようにも見える。
そんなシーナを余所に、ティルは確信をもって告げた。
「ルックは渡さないから」
そして、動揺を隠せていないルックの首筋に腕を絡ませる。
「……っ!」
シーナが目にしたルックの瞳は揺れていた。
まさか、ティルがシーナに対してここまでやるだなんて思っていなかったからだろう。
「…くそっ!」
シーナが痛みを堪えて、床から立ち上がる。
ガタッ!
それを見て席から立ち上がったルックは、まだティルに喰って掛かろうとするシーナを、ティルを庇うかのように手で制した。
「ルック…なんで止めるんだよ」
「…ごめん」
シーナの耳に、小さいけれど決定的な言葉が響いた。
認めたくないけど…それは、嫌に素直なルックの言葉だった。
シーナは、ティルに向けた拳を静かにおろす。
それを見て、満足そうにティルは微笑むとルックの手をとった。
「行こうか、ルック」
「……好きにしなよ」
そして、ルックはティルに引っ張られるように教室を去ろうとしている。
シーナは何とか二人を止めたいと思った。
そして必死に声を紡ごうとする。
「待っ…」
だけど、何故かそのあとの言葉は出てこなかった。
シーナは、二人が密かに好きあってたのは知ってたし、そこに横槍を入れたのは自分だとわかっていたからだ。
シーナが最後に見た二人の指は、お互いを慈しみあうかのように…絡まっていた。
…そうか
「最初から……俺の負けか…」
悔しいけど…これで、よかったのかもな。
「…幸せになれよ」
―教室に響いた戯れ言は、二人に届いたのだろうか
―end―