図書

□追いかけっこ。
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どこに行っても
街中にポスターが貼ってある。

その前で携帯やらデジカメやらで
楽しそうに写真を撮る女子達。

人気がある事はそりゃいいことで、
あの職業、有り難い事なのは
重々承知している、私だって。

ただ
『山P』とかならまだしも
『智久』とか言ってる子を見ると、
づかづかと近付いて言ってやりたくなる。

ただそれは私の我が儘だと言い聞かせ、
その横を通り過ぎた。



芸能人のましてやアイドルの想い人になるなんて
思いもしなかった、この23年間。
アイドルを想う事はあっても、だ。

働いている花屋に突然あの人が来たのは
三ヶ月前。





オシャレな若者が彼女、奥さんに花束を
買いに来るなんてしょっちゅうで、
ああ、この人も彼女へのプレゼントを買いに来たんだ
そんな事を漠然と思い、言われた花を
ラッピングしてた。

会計の時、お釣りを渡しながら
ありがとうございます、を伝える際
しっかりと目を合わせば
サングラス越しでも分かってしまった
アイドル。

東京に住んでいれば芸能人と
すれ違うのなんてよくある事。

でも、こうして面と向かって
芸能人と会話したのは初めてで
ドキドキしたのを覚えてる。

彼は少し笑いながら
「…ソロコンおめでとうって、
 メッセージカード
 付けて貰っていいですか?」

優しい声にまたドキドキした。



それが最初の出会い。


数分の。





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