図書

□Love song
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仕事をこなす傍ら、
ぽっかりと穴が空いた何かがいつも虚しい。
穴を埋めたくて、
ぎちぎちに入れたスケジュールも
忙しさだけではちっとも埋まってくれない。

それどころか、
誰の為に走り回ってるのかを
疑問に思う自分がいる。



「今日のんよかったやん。」


収録が終わった楽屋で亮ちゃんが言う。
何が?という顔をすれば、

「切ない感じが出とって。」


褒め言葉なんだろう。
正直歌ってた最中の事なんか覚えてない。

亮ちゃんに適当に答え、私服に着替えた。


ドラマに映画、ツアーに収録にレコーディング。
何冊も受ける雑誌の取材なんか
マニュアルでもあるかのように
同じ内容を繰り返し話す。
多忙な仕事も心此処に在らず状態で
アイドル失格だと自分でも思う。


何がしたいのか、
どうして欲しいのか。






たまにはゆっくり歩いて帰ろう、そう思い
一人夜道を歩く。

ネオンが光る、提灯が照らす、
行き交う人は声高らかに会話をする。
賑やかな街は嫌いじゃない。
自分が喋らなくても、聞こえる笑い声に
安堵の念が来る。

こんなにも人がいるんだ。
溢れ帰ってる東京で、また違う出会いも
必ずある。
一人に執着してても先には進めない。

そう小さな声で自分の胸に脳に
言い聞かせる。

なのに、
道行く人混みの中に
茶髪のロングヘアーの女の人を見ては
気になって振り返ってしまう自分がいる。

俺から別れを切り出したのに、
好きな人を最後の最後で
泣かせてしまったのに。
カリンを言い訳の要素に使って
弱い自分をなすりつけて。

本当の俺の気持ちを知ったら
カリンは何て言うだろう。
情けない、と呆れるだろうか。
それとも、そんなこと無いのにと
笑ってくれるだろうか。








あいつから別れを告げられる事が

本当は恐かったと。







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