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□その言葉だけで十分
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「――…坊っ!!その髪、どないしたんですか…?」

春休み中、坊はいつの間にか髪を染めて寮に戻ってきた。
俺にも、子猫さんにも何の相談もせずに。























その言葉だけで十分
























『――ぴゃっ!!?ぼ、ぼぼぼぼ坊っ!?その髪、どないして…!?』
「子猫丸、落ち着け。ちょお染めただけやろ」


まだ寮に入って数日。
積み上げられた段ボールの整理は終わってはいない。
入学式までの休みをのんびりと過ごす中、坊は俺達三人の中で一番早く片付けが終わった。
数時間前の出来事だ。


「――ちょお出掛けてくるわ」
「どこ行くんです?」
「まぁ…、ちょっとな」


行き先は告げず、坊は財布と携帯だけを持って寮を出ていった。
子猫さんは心配だからと着いていこうとしたが、坊に止められたのか、シュンと肩を落として部屋に戻ってきた。


『坊、一人で大丈夫やろか…』
「まぁ坊も子供や無いんやし、子猫さんは心配し過ぎやって」
『せやかて志摩さん!』
「っあ゙〜…;;すんませんでしたー俺が悪かったですぅ」


相変わらず心配性な子猫さんについ本音を漏らしてしまい、しまったと眉を寄せる。
直ぐに大袈裟に謝ってその場を誤魔化せば、子猫さんも少しは落ち着いたらしい。



「まぁ、坊も夕飯までには帰ってくるやろ」


そんな俺の読みは的中し、坊も夕飯前には寮へ帰ってきた。
しかし寮を出る前と帰ってきた後では、まるで様子が違う。


「坊…っ!!その髪、どないしたんですか…?」


センターのモヒカン部分を綺麗に金髪に染め上げ、今まで下ろしていた前髪は後ろへ流し、オールバックに決めている。
髪型を変えるだけでこうも雰囲気が変わってしまうのかと、妙に感心してしまった。


「別にええやろ。気合いや気合い」


…勘弁してくれ。
ただでさえ人相が悪いのにそんな目立った髪型をしたら、高校でも悪い連中に絡まれない訳がない。
なんて、言えるはずもないけど。


「女将さんにどやされますよー?」
「暫く会う機会もないやろ。それに俺は今の方が結構気に入っとる」
「まぁ…」


似合ってますけどね。
そう告げる前に部屋に戻ってきた子猫さんが、真っ青な顔をして動揺しながら坊に詰め寄ってきた。
バツが悪そうな坊に対して子猫さんは本当に期待を裏切らない反応をするなぁと呑気に考えながら、二人のやり取りを笑って眺めていた。




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